目次
第1章.研究目的と背景
1-1.研究目的
1-2.研究背景
第2章.主な先行研究
2-1.ドラッグストアの業態とチャネル構造に関する研究。
周(2005)は、「小売の輪」と「小売アコーディオン」理論の統合注:加藤を援用し、品揃えと価格優位性という2つの視点からドラッグストア業態の革新性に対して研究した。その結果としては、専門性の高いHBC(ヘルス&ビューティケア)商品と高い購買頻度の日用雑貨の提供されることで、魅力的な品揃えを実現できる。一方、粗利ミックスという差別戦略の採用に競争優位性を確保することができると指摘した。
島永(2009)は、これらの視点をさらに発展させ、品揃えと利益構造からドラッグストアの業態ポジショニングマップを描いた。つまり、利便性と専門性、低価格訴求と高収益という観点からドラッグストアの業態革新性を指摘した。二人とも日本ドラッグストアの大手企業マツモトキヨシの事例を取り込んでいた。
本藤(2006)によると、日本のドラッグストアは、価格訴求型から付加価値訴求型へのモデルを転換している。そのため、ドラッグストア企業を「利便性強化型」と「専門性強化型」の二つに分け、「利便性強化型」は、顧客ニーズ分散(多様なニーズに対応する)で行われる。FC導入、サービス均質化と異業態間競争へ発展している。「専門性強化型」は、顧客ニーズ共通(主なニーズに対応する)で行われる。調剤部門の強化、サービス差別化と同業態間競争への発展可能性が高いと分析した。
三村(2014)によると、日本のドラッグストアは調剤機能を捨てることで成長を目指したため、業態としての独自性でも薬局?9?9薬店としての調剤機能でも存立基盤が弱いと論じた。ドラッグストア業態は、仕入?9?9販売モデルと小売サービスモデルが融合されたモデルを利用し、顧客関係性を深くし、それに適合した経営組織と小売マーケティング戦略の構築することを注目すべきであると論じた。
2-2.ドラッグストアの経営戦略に関する研究
駒木(2012)は、日本ドラッグストアの成長と再編成に対して、立地条件と出店戦略が重要な要素となると主張した。ドラッグストアはドミナント戦略が強い業態であり、商圏が比較的狭く、マーチャンダイジングにあたっては商圏内の地理的条件が重視されていることを主張した。さらに、ドラッグストアの今後方向性については主な4つがあると論じた。それは、①他業態との連携などにより品揃えを充実させた「バラエティドラッグ」、②専門性を強化し、情報提供などにより質を向上させた「スペシャルティドラッグ」、③健康?9?9美容施設などの併設により付加価値を高めた「ビューティドラッグ」と④規模拡大やプライベートブランドの導入などによりコストを削減し、広顧客層を見込む「ディープディスカウントドラッグ」である。
本藤(2007)は、HBC(Health and Beauty Care)における流通構造の変化により、商品カテゴリーの構成について研究した。高齢化社会が進むにつれ、国民の健康意識の高揚に伴って健康食品などの注目度も高まり、医薬品カテゴリーという売場は少しずつ関連商品を吸収することによって,HBC カテゴリーは肥大化しつつある、HBCカテゴリーへの需要を高めていく。特に、主要商品としての医薬品と化粧品には、生産構造において質的差異が存在していることを認識した。医薬品は、商品自体の差異がないが、販売チャネルによって差異が存在する。これに対し、化粧品はイメージ戦略を訴求するため差別化することができると指摘した。それに、ドラッグストアの展開については、都市部で専門性を活用し、地域商圏では利便性を重視し、商品のカテゴリーを拡充することで定着の可能性が高いと論じた。
重富(2014)によると、ドラッグストア業態では(上場企業に限っても)企業間の売上規模の差異が大きく、収益構造や店づくりの方向性の差異も大きいという特徴が指摘された。また、様々なドラッグストア企業の研究を通じて、ドラッグストア企業を「HBC強化型」、「ディスカウント強化型」と「折衷型」に分けることが可能である。今後の社会変化や制度変更、市場ニーズの方向性などを考慮すると、ドラッグストアは豊かな成長機会があると考えられているが、他業態との同質化傾向が強く、消費者にとって業態としての存在意義がなくなる恐れがある。そのため、今後ドラッグストアの各企業は収益性を強化しつつ、業態内外に対する明確な差別的優位性を確立することが重要であると指摘した。
佐藤(2011)は、ドラッグストア業界での大手企業であるツルハホールティングス(HD)の成長してきた要因によって、以下のようになっている。①出店の加速化とドミナント戦略の強化、②経営環境の整備とローコストオペレーションの強化、③自社知名度向上による信用力とバイイングパワーの増大、④「かかりつけ薬局」としての社会に貢献できる人材の育成と掲げながら全国への出店の続けという4つの原因で、経営姿勢が革新的な成長をもたらしたと指摘した。
2-3.ドラッグストアの消費者行動についての研究
清水(2004)は、小売業の事業展開について、マクロ的な立地戦略からミクロ的な各種プロモーション戦略までを、消費者の店舗選択?9?9来店?9?9購買?9?9ロイヤルティ形成までのプロセスについて研究した。特に、スーパーマーケット、コンビニエンスストアとドラッグストアという業態の利用程度とその関連性を整理した。具体的には、ドラッグストアの利用は、主婦の年齢?9?9学歴?9?9自由時間あるいは乳幼児がいるかどうかなどの要素と関わっている。また、その3つの業態を利用する程度の関連性においては、都市規模と生活水準に関連し、大都市の住民ほど、生活水準が高いほど、3つの業態の利用回数が高くなると論じた。さらに、ドラッグストのみ利用回数が多い家庭の年齢層については、比較的若く、家族人数も少ないということを指摘した。
鈴木(2014)は、ドラッグストアの購買者を来店動機により分類し、その分類された購買者タイプの購買特性を手掛かりとして、ドラッグストア業態の品揃えの方向性を検討した。結果は、ドラッグストアの今後の方向性は、業態としての独自性と商品カテゴリーに関しての非計画購買に関連している。ドラッグストアという業態は、品揃えの幅を広げることで、最寄り品を取り扱うスーパーマーケットなどの他業態から需要を奪い取ることで成長していきたが、日用品や食品などの品目を増やすほど、ドラッグストア業態としての独自性が弱まり、他業態との差別が不明確になるため、食品を低価格販売することから脱却し一方、HBC商品の役割を明確にすることが重要であると主張した。また、ドラッグストア店内における関連購買が発生するメカニズム、特に、HBCカテゴリーと非HBCカテゴリー間での関連購買については、購買者の行動を把握することが必要である。さらに、ドラッグストアの各カテゴリー売場の改善方向においては、それぞれ現状の購買者情報実態の把握が重要であると指摘した。
重富?9?9加藤(2016)は、重富(2014)の研究をさらに発展させ、以上の3つのタイプのドラッグストアについて分析した。その結果は、「ディスカウント強化型」と「折衷型」の多くが増収増益基調である一方、「HBC強化型」は減収減益傾向となることを明らかにした。また、首都圏?9?9都市部5社からの調査を見ると、従来の収益モデルであった 「大市場の首都圏に本拠を持ち、HBCカテゴリーを中心とする付加価値訴求を行うことで 基盤強化を図る」といった図式があてはまらなくなってきたことが分かった。さらに、利用店舗の立地と来店者の属性が店舗に対する満足度と関わると主張した。
2-4.中国のドラッグストアに関する研究
孫(2014)によると、中国では伝統的小売市場が現代小売市場へ変更しつつあり、この2つが併存する二重構造にある、中国のドラッグストアも大きく薬店と薬粧店の2種類があり、その代表的企業分析により、それぞれの経営戦略とビジネスモデルについて研究した。結果としては、中国現地にあるドラッグストアについては、サービス強化、多角化経営および大健康ビジネスモデルへの移転などの共通点が見られるが、差別化され、異なるビジネスモデルを探索することが重要である。また、中国の薬粧店チェーン企業は店舗網の拡大を求め、PB 商品を重視し全土に出店することと、地域中心に経営効率を重視することといった2つの展開方向があると論じた。
孫(2015)は、薬粧店は中国のドラッグストアの代表として、急速に成長している。その原因については、ワトソンズの例を挙げて、小売マーケティング?9?9ミックスの視点からその成長要因と、今後の発展方向を中心に研究した。結果は以下である。中国現地にあるドラッグストアワトソンズ(香港系)の成長している主な原因は4つがある。それは、①プライベート(PB)商品の育成、②優先的陳列、低価格?9?9高付加価値商品の提供、標準化接客サービス、③異業態との提携、④戦略的な店舗展開である。また、ワトソンズの成長要因の分析をもとに、中国においての薬粧店は、激化した競争を勝ち抜くために、, 3つのポイントがある。それは、「自社PBの開発」、「接客サービスの強化」、「商品に関する知識の専門性」である。
孫(2017)は、日本のドラッグストアの特徴を踏まえて、中国のドラッグストア(薬店と薬粧店)の今後の方向性について検討した。結果は以下になる。①中国のドラッグストアは、医薬品または化粧品のいずれかの商品分野に特化することで2つのビジネスモデルに分けられる。②継続的優位性を維持するため、商品分野の拡充と、主力商品分野における差別化が重要である。③薬店は各地域の密着性が高く、ドミナント戦略に適合する。また、都市規模、所得水準の違いにかかわらず、薬店の商品戦略はほぼ同様である。④薬粧店は異なる地域(都市規模、所得水準)によって、商品戦略の差異がある。
第3章 分析枠組みと研究方法
3-1.分析枠組み
(1)マーケティングについて注:日本商工会議所(2013)
以上のことでは、多くの研究者はドラッグストアの事業展開について、業態革新、業態展開?9?9チャネル構造、経営戦略及び消費者行動の視点から研究した。それらの研究をもとにして、本稿では日本のドラッグストアと、中国のドラッグストアの一部である薬粧店を中心に行う。具体的には日本のドラッグストアのトップ企業マツモトキヨシとワトソンズの事例として取りあげ、その発展経緯を整理し、マーケティング戦略の視点からそれぞれの成長要因を分析することを目的としている。さらに、アンケート調査を行ったことで、今後日本のドラッグストアは中国への進出について検討する。
まず、マーケティング戦略について説明する。
アメリカ?9?9マーケティング協会が2004年に改訂したマーケティング定義によると、「マーケティングとは、組織とその利害関係者の利益となるように、顧客にとっての価値の創造、伝達、流通を行い、そして顧客との関係を管理するための組織的な機能や一連の過程」である。また、1990年代頃、日本マーケティング協会によると、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動」である。マーケティングンについての定義はそれぞれの学者や団体によっても異なるが、いずれにしても顧客を中心として、企業が創造的で統合的な適応行動を行うことである。また、市場状況や競争環境といった外部環境を的確に対応することも重要である。つまり、ある市場環境の下では、ある特性を持つ企業がどのような行動を行使するとき、どのような成果を求めうるか、という形で求められる。これはマーケティング戦略と呼ばれる注:Abell(1978)。
マーケティング戦略については、最も知られているのはSTPという枠組みである。Kotlerによると、STP枠組みとは、市場細分化、標的設定、ポジショニングで構成される注:Kotler and Keller(2006)。すなわち、顧客の集合を属性(年齢や職業など)や使用場面(頻度やこだわりなど)の基準から分け、自社にとって意味ある市場のセグメントを抽出した後、潜在または顕在するニーズを分析し、標的市場を設定する。最後に、ポジショニングとは、標的となるセグメントの顧客に提供される価値の設計である注:池尾(2016)。このSTP枠組みによって、自社の製品に対しての顧客と価値を提供する方法が明らかにした。また、マーケティング?9?9ミックスに加えて、顧客とコミュニケーションの一貫性が提供されるといえる。マーケティング?9?9ミックスは、マーケティング戦略を実施する際の手段として、主に4つの方法がある。つまり、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)である注:片野(2009)。
したがって、市場状況や消費者行動を確認した上で、マーケティング?9?9ミックスという手段を融合させることで、有効なマーケティング戦略を実施することができる。つまり、マーケティングとは「対象となる市場において企業が自己の優位性を得ようとするための販売に関する諸活動の革新」である。
一方、小売業においては、ほとんど品揃えおよび店舗運営の能力をアップさせることが経営の中心的課題となっているが、消費者のニーズに対応する製品を創造する意味でのマーケティングについては、あまり注目しなかった。現在の社会において、いくら優れた商品を店頭に並べておくだけでも、消費者の心を捉えないと売れない。小売業はマーカーのマーケティングと違って、店頭起点から自己の地域市場を刺激し、新たな購買意欲を高めさせることが非常に重要である。すなわち、店頭を活用することで、顧客創造と顧客維持に向けるマイクロ?9?9マーケティングを行うことが今後の発展方向になる。
また、マーケティングの目的としては、メーカーが自社のブランドシェアを拡大することに対し、小売業では来店率と購買率に示される顧客シェアを拡大することである。このように、マーケティングの視点から見ると、メーカーと小売業では大きく異なる。(図表1)
図表1. メーカーと小売業のマーケティングの違い
|
メーカー |
小売業 |
タイプ |
マス(大衆)?9?9マーケティング |
マイクロ(パーソナル)?9?9マーケティング |
展開の範囲 |
広域的エリア |
狭域的エリア |
標的 |
マス市場(不特定多数の消費者) |
自己の商圏(特定多数の顧客) |
ねらい |
市場シェアの拡大 |
顧客シェアの拡大 |
手法 |
小品目大量販売型 |
多品種少量販売型 |
コスト |
テレビCM中心の高コスト |
チラシ広告中心の低コスト |
出所:日本商工会議所(2013)10ページ(原典:『小売業のマーケティング戦略の実際』)
また、マーケティングという概念は、もともと消費財メーカーが中心として、4P理論に基づいて、事業展開を行っている。すなわち、消費者のニーズに合致した製品を開発し、マスメディアで自社の認知度を高め、開発コストに見合った希望小売価格を設定し、全国に数多く点在する卸売業を活用した販売代理店政策などを通じて、川下の小売業へ大量の製品をきめ細かく流してきたものである。この大量生産につれ大量販売を行わなければならないことで、いわゆるマス?9?9マーケティングによる市場シェアを拡大してきた。
これに対して、小売業のマーケティングは、一部の有力な小売業をはじめ、ようやくマイクロ?9?9マーケティングへ発展している。その小売業のマイクロ?9?9マーケティングとメーカーのマーケティングの4Pについての違いは、以下の図表2の示すようになる(図表2)。
図表2. メーカーと小売業の4Pの違い
4P |
メーカー |
小売業 |
製品?9?9サービス(Product) |
プロダクト?9?9プランニング(計画的、継続的な製品開発) |
マーチャンダイジング商品化政策(品種的効果的組み合わせとその数量の決定) |
プロモーション(Promotion) |
マス?9?9プロモーション(マス媒体による大規模?9?9広域的広告宣伝) |
インストマーチャンダイジング(店舗ごとに狭域型購買促進政策) |
価格(Price) |
スタンダードプライス(メーカー希望小売価格が支配したが、小売業に市場価格を判断させる傾向) |
エリア?9?9フェア?9?9プライス(地域の状況によって、公正価格を設定) |
流通(Place) |
マーケティング?9?9チャネル(最も効率的な流通経路の選択とコントロールによる市場シェアの確保) |
ストアロケーション(立地戦略。立地選定とそれに適した業態の開発による出店 |
出所:日本商工会議所(2013)11~14ページにより作成
以上のことで、小売業のマーケティングという概念を明らかにした。本研究には、小売業のマーケティングの概念をもとにして、ドラッグストア業界では、マーケティングの目的をより良い効果を果たせることを分析する。具体的なものは以下のようになる。
「製品?9?9サービス」には、製品の品質やデザイン、製品陳列、製品のラインアップ、売り場チェック、プライベート(PB)商品の開発、ポイントカードの管理、保証やアフタサービスなどを含める。「価格」には、価格の設定や割引など消費者への提示以外に、流通業への取引条件(販売奨励金など)も含める。「プロモーション」においては、店頭でのイベントやキャンペーンの実施、チラシ、POPなど広告の宣伝、クーポンの利用パブリック?9?9リレーションズ(PR)活動の実施、インターネットなど通信情報システムによるマーケティングが含まれる。最後の「流通」には、小売業界には最も重要な要素である。それは、チャネル政策、流通範囲、店舗の立地、在庫管理などがある。
(2)小売業の競争優位性について
矢作(2011)は、日本優秀の小売企業の事例から小売企業の競争優位性について分析している。結果としては、小売企業は競争優位性を確保するために、「独自の価値を安定的に供給する能力」が必要である。それは3つの方向性がある。第一に、革新的な小売業態を開発し、出店している「市場戦略革新」である。第二に、同一業態?9?9同一出店地域でも革新的な店舗運営方法や商品調達方法などで差別化される「業務システム革新」である。第三に、革新的な小売業態?9?9出店戦略を革新的な店舗運営方法で展開している「市場業務革新」である。
小売事業の主要活動は販売と仕入れの二つである。物流は販売と仕入れを橋渡ししている。補助的な活動として行っている。つまり、情報処理システムに基づき、空間的?9?9時間的な在庫投資活動を調整している。一方販売活動は、業態戦略?9?9出店戦略などの市場戦略と店舗運営システムの二つに分け、仕入れ活動は「商品調達」と「商品供給」を構成している。「商品調達」としたのは、小売企業がNB商品を仕入れるのと同時に、PB商品の開発や海外商品の輸入を行っているのである。「商品供給」では、卸売業を抜かして考えると、NB商品を生産段階から小売業の配送センターまでの一次物流、配送センターから店頭までの二次物流、およびPB商品の原材料段階から製品段階までの物流までのである。その後、配送センターで小分けや加工等を行う。そのプロセスはサプライチェーン化され、物流ともいえる。
また、競争優位性を確保するために、組織能力という要素も重要である。これは、組織内と組織間関係の設計?9?9管理といった問題となる。すなわち、市場戦略とそれに対応した業務システムの一貫性、および小売企業は中間業者との取引関係などの問題である。
したがって、小売業における競争優位性は、「独自の価値(サービス)を安定的に提供する」能力によるものと仮定できる。つまり、現場の業務執行能力が競争を左右している。
さらに、競争優位性の持続性を左右する組織能力の模倣困難の程度については、経済学者ウインターによると、「暗黙的」で、「観察が不可能で、複雑なシステムに埋め込まれた」「知識が移転困難」、反対に「マニュアルなどに形式され、観察して理解しやすい単純な独立的な」知識が「移転」容易である。知識の「移転」は本社から子会社へ計画的な知識の移転、「模倣」は競争相手の非計画的な知識移転である。ウインターは模倣可能性をこのように整理している。小売業店舗の単純業務は観察しやすく、業態戦略や出店戦略も模倣されやすい。そこで、誰よりも早く新しい業態を導入する市場戦略や、どの競争相手より早く良い立地に大きな店舗を出店することは軽視できない。
日本リテイリングセンターの渥美俊一は、アメリカで生まれた新業態を誰よりも早く模倣する先制主義や誰よりも大きな店舗を出店する主義を提唱した。市場戦略では、経営効果の即効性が大きな魅力となる。市場戦略の模倣の容易さと経営効果の即効性は同じコインの表裏の関係である。小売業務システムの知識属性は店舗から直接観察できない要素が多く、因果関係を特定しにくい複雑な相互関連性がある。店舗運営システムは、必ずしも高度な要素ばかりではない、業態分野により市場戦略に応じた独自の業務システムが構成され、それぞれに必要とされる個別能力の組み合わせが複雑である。
3-2.研究方法
以上のことで、本研究は、代表的なドラッグストア企業の事例を取り上げて、それぞれの企業はどのようにマーケティングを展開しているのか?また、競争が激しい小売業界の中では、自社の競争優位性を持続的に確保できるための方法について分析する。
第4章 ドラッグストアの定義と歴史について
4-1.米国のドラッグストアに関する歴史と定義注:宗像(2008 A)
本論に入る前に、ドラッグストアについての定義を明確にする必要がある。ここでは、まず、既存研究の中で、米国、日本と中国のドラッグストアについての定義、およびそれと関連する事柄を分析する。
米国には、医薬品は医療用医薬品(処方箋薬)と一般用医薬品(大衆薬)の2種類に分けている。米国食品医薬品局によると、医療用医薬品と医師による処方箋を持って、薬局で購入する個人のための医薬品である。つまり、病院で診療を受け、医師から処方箋を出し、その処方箋を持ってドラッグストアに薬を購入することができる。このように、米国の医療システムは完全な「医薬分業」体制になっている。一方、一般用医薬品は医師の処方箋が必要としないで、ドラッグストアの商品棚で購入できる医薬品である。
また、米国の保険制度については、65歳以上の高齢者また低所得者を対象として、国が医療費用を負担している。それ以外の多数の国民は非営利の医療機関組織に加入している。医療費用の高騰、高齢化の深刻化と格差の拡大などの問題により、ほとんどの国民は病院に行かずにドラッグストアで一般用医薬品を購入し、自分自身で治療することになっている。つまり、米国のドラッグストアは大衆医療の役割を担って成長している注:松村(1993)。
初期型ドラッグストアは、1800年代からアメリカで台頭した。1933年に、「チェーン形態のドラッグストアがいかに有用化か?1?9を主張するために、全米チェーンドラッグストア協会(NACDS=National Association Chain Drug Stores)が設立された。当初、アメリカでドラッグストア業態についての定義は、おおむね「調剤を有し、HBC(Health and beauty care)商品や雑貨(日用品?9?9文房具?1?1食品)を取り扱う店舗」である。また、松村(1993)によると、米国のドラッグストアがファーマシー、調剤専門薬局とスーパードラッグストアの3つのタイプに分類している。
なお、米国の医薬品流通の種類について説明する。米国においては一般医薬品の販売は原則自由で、ドラッグストアのみならず、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ガソリンスタンドなど、どこでも購入するのが可能である。そこで、米国についてのドラッグあるいはドラッグストアといえば、調剤応需を意味する。米国の調剤においては面分業で展開している。つまり、院内調剤、門前調剤は少なくなっている。調剤を行う店舗も、チェーン形態をとっているか、単独個店(インディペンディト)で営業しているか否かは別として、そのほとんどは生活と買い物で品揃えされた業態店として展開している。そして、米国における医師と薬剤師との信頼関係は厚く、相互に補完し合いながら、地域ごとに医療が進められている。
4-2.日本のドラッグストアに関する歴史と定義注:宗像(2008 A)
日本における本格的なドラッグストア業態づくりの試みは、1973年に共同仕入れ組織(ボランタリーチェーン〈VC〉)のオールジャパンドラッグ(AJD)が千葉県千葉市につくった千葉薬品作草部店がその初めと言われた。その後、1976年には、ハックイシダによりハックファミリーセンター杉田店がオープンし、日本ドラッグストア時代の幕開けになったのである。また、そのハックイシダは杉田店をはじめ、港南台店、戸塚店などの店舗が次々に開店された。当時、革新的な薬局?9?9薬店の経営者がアメリカ視察を行った際、ドラッグストアは、生活に便利な店舗形態で、理想の店舗形態に映ったと感じた。そこで、全国の有力な薬局?9?9薬店がこぞってドラッグストアという業態に転換していくのである。これらの店舗は、医薬品などの高い付加価値の商品から獲得した利益を、日用雑貨や食品などの低価格販売にまわして来店客数を増やし、売上高を増加させるための経営を展開している。つまり、購買頻度の高い商品を安く販売することにより、顧客の来店率を高め、多くの消費者を集めるようになった。
1990年代に入ると、マツモトキヨシが全国のテレビCMの中で、初めて「ドラッグストア」という言葉を使い、国民はドラッグストアという業態に対しての認識が広がっていた。そして、ヘルスケアやビューティケアなど、美容と健康に関わるものの取り扱いを始めたため、当時女性からの支持をたくさんもらえた。また、90年代後半、品揃えの増加につれ店舗規模も拡大し、100店舗以上を持つチェーンドラッグストアが出現した。さらに、2000年代になると、日本の少子高齢化問題の深刻化とともに、「自分の健康は自分で守る」という「セルフメディケーション」を推進していた。しかも、専門性を高める社員教育にも取り込んでいた。1999年6月に、日本のチェーンドラッグストア協会(JADCS)が発足した。国民の健康と豊な暮らしに寄与することを目的としている。
日本経済産業省の商業統計調査での業態分類によると、ドラッグストアは特に店舗面積を限定せず、おおむね次のように定義している注:日本商工会議所。
lセルフサービス販売
l産業分類の「医薬品?9?9化粧品小売業」に属する
l一般用医薬品を扱う
また、日本の医薬品流通の種類においては、医療提供施設である「薬局」と、一般用医薬品を販売する「医薬品販売業」の2つに大別されている。「薬局」は、薬剤師が医師の処方箋に基づいて、医療用医薬品の調剤を行う。また、一般用医薬品の販売も行っている店が多い。これらの店を運営するには薬局申請が必要である。「医薬品販売業」は、これまで薬剤師が医薬品の管理を行う「一般販売業」、都道府県の試験に合格し、店舗の開設また販売許可を取得した「薬種商販売業」、一般家庭用の薬品を取り扱って、配置員が代金を回収する「配置販売業」と、山間僻地で専門家がいないところに薬品を提供する「特例販売業」の4形態に分けていた。薬事法の改正によって、一般販売業と薬種商販売業を統合し、「店舗販売業」になった。それと同時に、「登録販売者」という制度が導入され、店舗が長時間営業することができるようになった。さらに、取扱う医薬品はリスク程度ごとに3種類に分けられた。つまり、リスク程度の高い医薬品を第1類、比較的リスクが高い医薬品を第2類、リスクが低い医薬品を第3類に分類した。第1類は、薬剤師のみが扱うことが可能である。第2類と第3類医薬品においては、薬剤師がいなくても登録販売者がいれば、販売できるようになった。(図表3と4参照)
図表3 薬事法改正前
店舗タイプ |
専門家 |
販売可能な医薬品 |
薬局 |
薬剤師(国家資格)
|
すべての医薬品 |
薬店 |
一般販売業 |
薬種販売業 |
薬種商販売業者(都道府県試験)
|
指定医薬品以外の医薬品 |
配置販売業 |
配置販売業(試験なし) |
一定の品目 |
特例販売業 |
(薬事法上定めなし) |
限定的な品目 |
出所:宗像(2008 A) 23ページにより
図表4 薬事法改正後
店舗タイプ |
専門家 |
販売可能な医薬品 |
薬局 |
薬剤師 |
すべての医薬品 |
店舗販売業 |
薬剤師または登録販売者 |
薬剤師はすべての医薬品
登録販売者は第1類医薬品を除く医薬品 |
配置販売業 |
出所:宗像(2008 A) 22ページにより
薬事法の改正により、日本のドラッグストアは長年に薬剤師の不足という悩みを解消した。しかし、薬剤師がいなくても登録販売者を雇用すれば、大部分の医薬品を販売することが可能になるため、スーパー、家電量販店などの業態が相次いで医薬品の販売に参入している。そこで、医薬品販売の競争が激化した。
4-3.中国のドラッグストアに関する歴史と定義注:孫(2017)
中国のドラッグストアについての法律?9?9法規が規定されておらず、ビジネスを展開する企業や中国産業協会商会などの組織によって、ドラッグストアは「健康?9?9美容にかかわる商品、具体的には薬粧化粧品(漢方成分を含む)と医薬品を一定割合で取扱う店」と認識されている注1。例えば、中国ヘルスケア協会はドラッグストアとは健康美容品と医薬品両方を取扱っている薬店であり、医薬品割合は20~50%と定義し、李(2010)は、化粧品の売上高が売上総額の40~50%を占める小売店をドラッグスタと理解している。
ドラッグストアの経営の実態からみると、大きく二つに分けられる。一つ目は、化粧品、医薬品、日用品及び洗剤などを販売する薬粧店である。代表的な企業はワトソンズ、マンニング、嬌蘭佳人などの外資系企業がある。二つ目は、伝統的な薬店から出発し、医薬品以外に健康食品、化粧品、トイレタリーまでを取扱う薬店である。代表的な企業は、老百姓大薬房、華氏大薬房をはじめとする内資系企業がある注:内資系企業とは、国有資産、集団資産、国内の個人資産を利用して設立する企業である。その資本金は、国家、集団及び国民個人が所有する。資本金の構成は、国有企業、集団企業、私営企業、聯営企業、株式会社という五つに分類される。
図表5 薬粧店と薬店の商品項目の比較
アイテム |
化粧品 |
トイレタリー |
個人ケア |
医薬品 |
医療機器 |
健康食品 |
日用雑貨 |
食品 |
ベビー用品 |
薬粧店 |
○ |
○ |
○ |
⊿ |
× |
○ |
○ |
○ |
○ |
薬店 |
⊿ |
× |
○ |
○ |
○
|
○ |
× |
× |
○ |
出所:孫(2015)8頁より。
注:○は販売している商品
×は販売していない商品
⊿は特殊経営許可で販売できる商品
薬粧店は化粧品、トイレタリー、パーソナルケア商品などを中心にして販売し、海外から導入されたセルフサービスの販売方式によって展開するチェーン店である。メインターゲットは若年層である。具体的に、「80後」(1980年代に生まれた世代)「90後」(1990年代に生まれた世代)をターゲットにした。現在の中間階級となっている。2010年に、アジア開発銀行が公表した『アジアと太平洋地域2010年重要指標』によると、2010年の中国中間階級人数は8.17億人であり、総人口の60.9%を占めている。彼らはよりよい環境で成長していた世代であるため、価値観とライフスタイルは上の世代とまったく違っている。彼らは、豊かな情報を獲得することが得意であるため、独立性が強くて、個性で新しいものを追求して、常に変化を求めるという特徴がある。
一方、薬店は、医薬品?9?9医療機器を中心に販売している。伝統的な個人事業商店から発展してきた独立型薬店と、チェーン店化してきた薬店チェーンに分けられる。高齢者層をメインターゲットとして事業展開を行っている。また、世帯構成の変化や政策の改正などにより、薬店は社会医療システムの一部として大きな役割を担っている。例えば、高齢者の生活に関連する社区養老、自宅養老の問題に対応するため、薬店は医薬品以外に健康食品、トイレタリーなど取扱商品の幅が広げる傾向が見られる。
したがって、中国のドラッグストアは専門性と利便性の提供を主要な目的とする医薬品、化粧品を中心に健康食品、美容、パーソナルケアに関連する商品を全般に取扱い、セルフサービス方式で販売する小売店であると提示する。
図表6 中国のドラッグストアの分類
店舗形態 |
概念 |
分類 |
薬店 |
医薬品とその関連機器を中心に販売する(わずかの薬店では化粧品も販売する)。 |
独立型薬店 |
薬店チェーン |
薬粧店 |
化粧品、トイレタリー、パーソナルケア商品などを中心として営業を行うと同時に、海外から導入されたセルフサービスの販売方式で展開しているチェーン店である。 |
内資系企業 |
外資系企業:香港系?9?9台湾系などの企業注4 |
出所:孫(2017)参照により作成
注1:中国産業協会商会は、中国産業の発展を促進するために、商務部を始めとする政府部門と非営利組織の学者などが設立し、様々な協会を会員に加入してもらう組織である。
注2::国家食品医薬品監督管理局によると、『全国医薬品流通業発展計画網用(2011-2015)』では医薬品流通企業の集中度を高める方針を打ち出して、具体的には、(1)1~3社の売上高が1千億元を超えて、全国規模の医薬品経営グループ企業を形成する。(2)医薬品卸売百強企業の売上高を医薬品卸売総額の85%を占めるようにする。(3)医薬品小売百強企業の売上高を医薬品小売総額の60%以上を占めるようにする。(4)チェーン店舗数の割合は全店舗数の三分の二まで高める。
注3:内資系企業とは、国有資産、集団資産、国内の個人資産を利用して設立する企業である。内資系企業の資本金は国家、集団及び国民個人が所有する。内資系企業は資本金構成によって、国有企業、集団企業、私営企業、聯営企業、株式会社という5つに分類される。
注4:外資企業とは、外国の企業、組織、個人による資本金を利用し、中国において設立する企業であると定義されている。
第5章 日本ドラッグストアの市場環境について
5-1.日本ドラッグストアの内憂外患
近年、日本の高齢化の進展は様々な学問分野に注目されている。国立社会保障?9?9人口問題研究所によると注:HP、2015年に3387万人を超える65歳以上人口は、その後も緩やかに増加を続け、40年には約3921万人に近く、総人口の35.3%に達すると推計されている。日本は「超高齢社会」に突入すると考えられる。こうした高齢化率の続けに伴い、様々な社会問題が発生してくる。とりわけ医療の高度化の進化の中では、保健医療費や介護費などが膨張されている。人口減少と高齢化が進む日本では、今後保険で行う治療や延命医療から、保険に頼らない健康維持や予防に力に入れ、これを産業が支えるという健康寿命の伸ばすことが大きなテーマとなっている。重篤な疾病にかかる前に、たとえば食事療法や運動などで体を自己管理したり、軽度な症状が出始めたら、自己治療したりことすることが今後の方向性になる。そこで、2013年6月に『日本再興戦略』注では、「戦略市場創造プラン」のひとつとして「国民の『健康寿命』の延伸」が掲げられた。健康寿命の延伸に対して、セルフメディケーションの推進が重点となるため、ドラッグストアは医療機関と国民を連結したものとして、重要な役割を果たしている。
また、2009年の改正薬事法の施行に伴い、OTC医薬品の第2類?9?9第3類医薬品は登録販売者を配置すればあらゆる店舗で販売できるようになり、他業態がドラッグストア市場に入れ乱れて競争が激しくなる。さらに、2014年6月から、日本政府がOTC医薬品のインターネット販売を原則として解禁された。ネット専業企業の新規参入により、競争がさらに激化し、市場飽和化の問題に直面している。
2014年3月14日~16日に、日本ドラッグストア協会を主催者として、ドラッグストアに関する基礎研究を進めるイベントである第14回JAPANドラッグストアショーを展開された。会議では、ドラッグストアの今後の発展方向やセルフメディケーション注:駒木(2011)により、セルフメディケーションとは自分自身の健康に責任を持つとともに軽度な身体の不調は自分で手当てすると述べた。推進が検討された。以下の課題が明示された。
l超高齢社会への対応
lセルフメディケーション推進への対応
l規制緩和への対応
lネット販売時代への対応
以上のことでは、ドラッグストアは他業態との競争もあり、業態内の競争も価格を下げ市場の成長率を妨げている。取扱い商品はナショナル(NB)商品が多く占めて、競合する店舗と「価格」以外の要素で差別化を図るのが難しくなり、同質化も進んでいる。
5-2 日本ドラッグストアの現状について
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の『日本のドラッグストア実態調査』注では、16年年度のドラッグストア企業の総売上高は対前年度比5.9%増の6兆4916億円に達した(図表6参照)。この数年では、売上高の伸び率が鈍化していたものの、しかしながら、2013年6月に「日本再興戦略」では、「国民の『健康寿命』の延伸」が明記されたと同時に、16年度に入ると、調剤需要の積極的な取り込み、食品の取扱いの強化、意欲的な新規出店、訪日外国人によるインバウンド需要を取り組んだことなどの原因で、ドラッグストアは高い潜在成長性を持っていると推測している。
また、調査対象の企業数は04年度の671社から16年度は431社に減少してきた。それは弱肉強食激烈な企業淘汰が進んでいる結果であった。企業数が減少してきたものの、店舗数は増え続けている。10年度に1万6259店舗あった店舗数は、16年度1万8874店舗となり、対前年度比877店舗が増加した(図表7参照)。なお、成長が続くドラッグストア市場では、大手企業の市場占有率が昨年より上回った(図表8参照)。上位の10社グループのシェアが全体市場の66%を占める。
図表6
出所:ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2017年7月15号
(原典:日本チェーンドラッグストア協会『日本のドラッグストア実態調査』より)
図表7 出所;ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2017年7月15号
(原典:日本チェーンドラッグストア協会『日本のドラッグストア実態調査』より)
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市場シェア |
売上高(億円) |
|
ウエルシアHDグループ |
10.1% |
6,565 |
マツモトキヨシHD |
8.2% |
5,351 |
ツルハHD |
8.1% |
5,275 |
サンドラッグ |
8.1% |
5,283 |
コスモス薬品 |
6.9% |
4,472 |
スギHD |
6.6% |
4,307 |
ココカラファイン |
5.8% |
3,772 |
富士薬品グループ |
5.0% |
3,216 |
カワチ薬品 |
4.1% |
2,664 |
クリエイトSDHD |
3.6% |
2,318 |
上位10社合計 |
66.6% |
43,227 |
|
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図表8 出所:ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2017年7月15号
(原典:日本チェーンドラッグストア協会『日本のドラッグストア実態調査』より)
一方、現在では日本ドラッグストア業界相関について説明する(図表9参照)。
ドラッグストア業界では、イオン系企業が目立つ存在である。2014年11月にウエルシア(HD)はイオンの連結子会社となり、15年3月に同じくイオンの子会社タキヤ、シミズ薬品と経営統合し、15年9月にCFSコーポレーションとも経営を統合した。これらの4社の統合したことで、ウエルシアの売上高は飛躍的に5600億円を超えた注:ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2016年8月号。さらに、16年5月にはクスリのマルエに20%出資すると、17年4月に青森県が地盤の丸大サクラヰ薬局を完全子会社化した注:ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2017年7月15日。多くのM&Aを経たことで、業界の最大手となっている。
また、同じくイオン系のツルハ(HD)は、総合スーパーのブジ傘下のレディ薬局の株式の過半を買収し、15年10月に連結子会社している。イオン系のドラッグストアは「ハピコム」連合を形成しPBを共同で開発し、薬剤師の研修プログラムを共有し強化している。
イオン系ドラッグストアに対し、大手企業マツモトキヨシホールティングス、サンドラッグ、スギホールティングスもM&Aは実施している。マツキヨ(HD)は傘下のドラッグストア事業会社の経営効率化と収益化向上に注力している。16年3月期に、ダルマ薬局をマツキヨ東日本販売が、イタヤマ?9?9メディコをマツキヨ甲信越販売が、ラブドラッグスをマツキヨ中四国販売がそれぞれ吸収合併している。
第6章 日本代表的なドラッグストアのマーケティング戦略について
6-1.ウエルシアホールディングスの沿革注:ウエルシアHP
まず、株式会社ウエルシアホールティングス(HD)の沿革を説明する。
ウエルシア(HD)のは東京都府中市においての「十字薬局」という個人薬局から創業した。1999年にツルハ(HD)と資本提携した後、2000年にはイオンと資本提携した。その後、前述したように、多くの企業をM&Aにより、商品や各社の開発商品を相互に供給したり、情報を交換したりすることで、規模を拡大し、現在のウエルシアグループが形成された。次は、当社の事業内容については以下のようになる。
ドラッグストア事業においては、当社グループは「お客様の豊かな社会生活と健康な暮らしを提供します」との企業理念のもとに、「ドラッグ&調剤」、「カウンセリング営業」、「深夜営業」、「介護」を中心としたビジネスモデルを推進し、高齢化社会というニーズに応えるため、調剤併設型ドラッグストアの店舗増加も進めている。
また、介護事業の展開については、ウエルシア介護サービス株式会社は訪問入浴介護、居宅介護支援、訪問介護、福祉用具の販売?9?9レンタルの他ドラッグストア併設型のデイサービス、グループホーム事業などの在宅介護サービス事業に加え、有料老人ホーム?9?9サービス付高齢者向け住宅の運営を行っている。
以上のことにより、2016年度の連結売上高ではマツキヨを抜きドラッグストア業界の首位となった。ドラッグストア業界の首位交代は実に22年ぶりとなっている。ウエルシアHDは、①調剤薬局の併設、②深夜営業、③カウンセリング及び介護事業の強化を柱にした事業モデル「ウエルシアモデル」への既存店舗の改装と、価格戦略の転換の2つの理由が大幅に増収してきた原因となった。そのうちには、全体の228既存店舗改装で、その売上高前期同期比7.4%を増加した注:ダイヤモンド社ドラッグストア2016年8月号50ページ。
6-1-1.出店戦略
ウエルシアの前身であるグローウェルホールティングスが誕生したのが2008年の9月である。以来、増収増益を続け、この間に寺島薬局、イレブン、ドラッグフィジイなどの子会社化、吸収合併を行いながら、売上高を10.8、営業利益は2.6倍に成長させて生きた。2009年8月までに、出店エリアに関しては、関東中心の12都県である。また、関東甲信越をしっかり収め、2010年3月にイレブンを子会社化し、兵庫から大阪、和歌山へと連なるたてのラインで西の橋頭保を構築し、東西から挟み撃ちをすることで、東海?9?9北陸、奈良?9?9京都へと出店している。岐阜への出店を果たした今、関東型近畿にかけて、未出店のエリアは福井県のみである。2014年年8月までに、23都府県へ広げ、2015年1月に、岐阜加納本石町店出店で24都府県となり、都道府県の過半の地域に出店したことになる。
また、海外市場にも進出している。2011年5月に、中国の流通最大手百聯集団グループの聯華超市有限公司及び、中国国内ネット通販事業を営む上海毎日通販商業有限公司の3社とともに、上海市を中心にドラッグストア事業を展開する合弁会社を設立した。翌年の6月に、中国の第一号店「櫻工房南方ショッピングセンター店」をオープンした。2015年3月までに、上海市4店舗、蘇州市1店舗を展開した。今後の発展については、当社の副社長松本は「日系ショッピングセンター内で『ウエルシアブランド』が認知浸透?9?9拡大している間に医薬品の販売許可を取得し、次の段階であるフリースタンディング店の展開につなげていく」と答えた。そして、今後は、店舗名は「櫻工房」のまま「ウエルシア」の看板を前面に出した店舗づくりを行うことも計画している。これは連結子会社になったという事業に加え、来日時にウエルシアの店舗で買い物をしてもらうことにもつながる。中国でも日系企業としての認知浸透を高めると考えている。
さらに、2017年3月に、東アジア?9?9東南アジア諸国のドラッグストア市場はさらなる成長が期待できると考え、アジアの中でも成長著しいシンガポールに進出した。現地で百貨店と総合小売業を展開するBHG(Singapore)Pte.Ltd.のノウハウと、ウエルシアHDの調剤併設型ドラッグストアのノウハウを融合し、シンガポールでの事業展開を進めている。
6-1-2.商品?1?1サービス戦略注:ドラッグストア?9?9ニュース2015年4月号
ウエルシアは、既存のNB商品の付加価値の発見とPB商品の開発の強化という2つの路線で進めている。
まず、NB商品の付加価値の強化においては、生活向上品はブルーオーシャン戦略をとっている。つまりNB商品での付加価値商品の提供や新しい価値市場の開拓を推進している。他社が扱わない商品や見落としている価値のある商品、付加価値を提供できる商品をNBから見だして、生活者へ提供する商品戦略は自社独自の商品戦略である。例えば、他社の先駆け、ウエルシア参考販売された永谷園「健康ふりかけ」は、同社の働きかけで生まれたNB商品である。「毎日おいしく食べて、健康にもいい」というコンセプトの商品を消費者に提供したいという発想による商品化である。
しかし、NB商品を中心として販売しているが、PB商品にこだわることはしないわけではない。そのPB商品についての展開については、食品や飲料などが「トップバリュ」、医薬品や衛生用品などは「ハピコム」と、親会社であるイオングループのPB商品を展開し、一部医薬品で日本ドラッグチェーン会のPB「ニッド」を導入している。そして、独自のPBブランド「welmark」もあり、食器用洗剤や除菌ウエットタオル、ホイルなどの日用雑貨品をラインアップしている。日常的使われるもの②浮いては生活者の経済性に対するニーズは高く、トイレットペーパーなどの紙製品、日用雑貨類価格競争力があるPB商品を外せない一方、カテゴリーによっては付加価値の高いものを求める傾向もあるため、化粧品や医薬品、健康食品などのH&BCの領域では必ず付加価値型のPB商品の開発に積極的に投入していく。
さらに、店舗機能やサービスのより一層の充実することも当社の課題となる。それに対して、カタログネット販売システムを導入した。商品の受け渡しを「宅配」と「店頭渡し」の両方から選べるようにした。買物に行きたくてもいけない人や、仕事などの都合により、宅配では受取りにくい人にとっても、様々な暮らし方に合わせ、使いやすいサービスとそれを実現する機能の充実、導入を検討している。そして、車椅子などの福祉用品や用具のカタログ販売システムを始めた。2016年2月に、埼玉県の坂戸店の開店を皮切りに、「ウエルカフェ」というシステムも徐々に展開している。「ウエルカフェ」はウエルシア薬局の企業理念が現れた取り組みである。椅子と机を置いた5坪前後のスペースでは、地域のアクティブシニアにフリースペースとして無料で住民に開放している。「ウエルカフェ」では、様々なイベントが展開されているが、その運営主体は主に地域の行政である。第1号店「ウエルシア坂戸鶴舞厚川店」では、坂戸市シャローム地域包括支援センターが認知症患者やその家族が認知症に関する相談などが行う「オレンジカフェ」の場所として「ウエルカフェ」を利用している。そして、健康に関連する情報を提供することや、要望があればボランティアの集まりにも提供している。
6-1-2. 物流戦略注:ダイヤモンド社ドラッグストア 2016年2月号
2016年2月に「ウエルシア春日部物流センター」の稼働を始めた。3フロア構成で延床面積は2万4500㎡の在庫機能を持ち、ウエルシアHDの最大の物流センターである。現在、関東近郊の約130店舗に商品の供給を担当している。このセンターの特徴は「ハブセンター機能」を有している。すなわち、店舗から店舗への移動品をいったん集め、各方面別に仕分けし、ほかのセンターに発送している。これによって、医療用医薬品の廃棄ロスが大幅に減少され、本部と各店舗が相互に書類を取引することもセンター側で行う。また、各店舗が使用する用度品の在庫も確保し、さらにほかのセンターに発送する用度品センターの機能も有している。当社の物流?9?9情報システムの部長安部崇氏は、「当初は300店舗くらいに対応できると考えていたが、既存店売上高の成長で物量が大きく増えている。現状のキャパシティは240店舗が限度」と言った。
現在では、ウエルシアHDはドライグロサリーを扱う物流センターを全国15カ所に配置し、全店舗に商品を供給している。そして、今後店舗数の増加と店舗展開エリアの拡大に伴い、建て替えや移転などでセンターの大型化も進めている。さらに、これらの全国15のセンターはBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の視点から見ると、稼働率が80%を維持し、1つのセンターに予測できない事態が発生した場合は、ほかのセンターが代わりに稼働できるようにする。
ほかには、ウエルシアHDの酒類において、物流が分離され、新設カテゴリーセンターの移管を計画している。すでに埼玉県熊谷市に酒類センターの整備をはじめ、今後同様のセンターを3カ所に増設する予定がある。
6-1-3. 調剤と物販の連携注:ダイヤモンド社ドラッグストア 2016年2月号
2016年2月に、1000店舗を超えるウエルシアの調剤併設店舗率は65.2%で、全体のおよそ2/3にあたり、調剤売上高構成比でも十数パーセントを占め、家庭用雑貨と肩を並べる重要なポジションである。上の数字から分析すると、調剤と物販の連携体制が重要であることは言うまでもない。
しかしながら、改正薬事法の施行によって、第1類医薬品を薬剤師、第2類と第3類医薬品を登録販売者がそれぞれ販売するような棲み分けができてしまっている。一般用医薬品の販売は登録販売者も可能となり、さらに調剤の売上が増えれば増えるほど薬剤師の仕事が増える。そして、薬価基準の引下げの原因に加え、薬剤師が所属する調剤在宅本部が巨大な危機感を持つようになっている。ストレートに粗利低下につながるからである。それと同時に、一般医薬品の売上高の減少に対して、薬剤師の意識にも変化が認められるようになる。
また、当社の薬剤師?9?9登録販売者教育部は登録販売者に責任を持って販売してもらう方向への変更も進めている。さらなる、調剤事務スタッフについても社内で資格制度を取得し給与で一般的パート社員と意識的に差別化した。とりわけ調剤事業スタッフにとっては、医薬品から雑貨に至るまでの様々な相談を対応でき、顧客にコンシェルジェ的な接客対応をしてもらうことを目指す。現在では、「介護の相談では『有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)』のグループ企業へ橋渡しする場面も出てくるであろう」と言われ、それに対応した店舗づくりを計画している。これらを実現するために推奨商品の勉強会を従来通り開催するとともに、動画教材を配信して各店舗で見てもらうようにeラーニングも稼働を開始した。
したがって、2016年に一般医薬品の取り組みについては、薬剤師の意識改革を含め新しい展開が始まった。「今後調剤を持たないドラッグストアにおいては、より一層の激戦が予想されることから、当社は調剤を持っていることを強みとして薬剤師や調剤事務と物販がうまく連携することで、OTCから他の商品へ拡大していきたい」と考えられている。
以上のことから、ウエルシアとしては、究極の情報拠点薬局を目指し。調剤の強化、コンシェルジェの人材育成、物販スタッフのスキルアップ、そしてウエルカフェの展開を推進し、新たなマーケットを開拓している。
6-1-4. 新しいマーケットの開拓
日本のドラッグストア市場は少子高齢化や競争激化などを背景に成長鈍化が予想されることで、ウエルシアは新しいマーケットの開拓を注目している。
2016年6月1日に、ウエルシアHDはビューティー?9?9調剤?9?9ヘルスを融合により、健康的な美しさをカラダの内と外の両方からサポートするシティ型ドラッグストア、「B.B.ON(ビビオン)日本橋店」(東京都中央区日本橋)をオープンした。物販スペースにネイルサロンやエステルーム、調剤薬局を併設している。店舗の名前「B.B.ON」はフランス語のbeau(おしゃれな男性)、belle(美しい女性)、bon(良質の)につなむ。「最高の美しさを提供する」をテーマにし、20~50代の働く女性をメーンターゲットに設定している。
物販スペースでは、化粧品やビューティー雑貨、文房具、健康食品、一般用医薬品などを豊富に揃え、中でも化粧品と健康食品を特に強化している。化粧品においては、「NEAL’S YARD REME DIES(ニールズヤードレメディーズ)」や「The Organic Pharmacy(オーガニックファーマシー)をはじめとしたオーガニックコスメを多く導入した。健康食品ではスーパーフードやサプリメントなどを多数取り揃えている。
調剤スペースにおいては、一角に血液の検体測定室を設け、500円でヘモグロビンA1cと脂質が10分ほどで測定できるサービスを提供する。測定結果によって薬剤師は顧客に医療機関の受診を推奨している。調剤薬局は在宅医療や施設調剤の処方箋も積極的に受け付ける。<, /SPAN>
図表9 出所:ウエルシアHDのHPにより
6-2. ツルハの沿革注:ツルハのHP
1929年に、ツルハグループは北海道旭川市の鶴羽薬師堂として創業した。当時には、「親切第一」「信用第一」を掲げ、戦時中売るものがないときでも、遠来の客の相談でも親身に対応している。現在でもツルハグループの基本理念である。1963年には株式会社へと転換し、1967年にはツルハ薬局が改装され、北海道の薬局で初めてセルフ販売方式を導入した注:佐藤はるみ(2011)。1975年に、クスリのツルハコントロールセンターを設立し、まだ5店舗のちきに20倍の道内店舗を目標に掲げ、14年で達成した。その後、関東や関西に進出し、全国1000店舗を目指している。また、2007年3月に、PB商品の企画?9?9製造?9?9販売促進を専門とする会社ウイングを設立した。2009年、ツルハeコマースを設立し、ネットショッピングを手がけている。日本高齢化の社会の進むにつれ、ドラッグストア業界が急速に成長しているが、市場の縮小という問題が出てきた。そこで、2010年6月、ツルハは新フォーマットを開拓し、新業態grouge一号店「グロージェ?9?9泉大沢店」を開店した。2012年4月まで、1000店舗に達成した。それと同時に、東南アジア?9?9タイにも積極的に出店している。2019年までに全国2000店舗という目標を掲げた。
ツルハの店舗形態は大きく3つに分けられ、第1種類は、店舗面積が30坪前後であり、スーパー中のテナントあるいは、中心街の小店舗である。第2種類は、店舗面積が60~70坪であり、食品スーパーの近隣に独立した店舗である。第3種類は、店舗面積が150~300坪であり、郊外型店舗である。それらの3種類の店舗を織り交ぜて出店している注:佐藤はるみ(2011)。
現在のツルハには、「お客様の生活に豊かさと余裕を提供する」という理念のもと、地域医療の担い手として、顧客の視点に立って、より身近で安心できるサービス店づくりを展開している。すなわち、「親切第一」という理念を浸透させ、地域の住民に信頼される魅力のある店づくりに注力している。当社の強み一つとしては、きめ細かなHBCを展開することである。例えば、化粧品売場づくりには、メーカーから派遣された販売員ではなく、すべて当社の社員がカウンセリングに対応している。このため、人材の育成にも力をいれ、高い専門性を持ちながら、健康で快適な生活に貢献している。
6-2-1. 出店戦略注:佐藤はるみ(2011)
ツルハは収益性を重視したドミナント戦略およびM&Aも含めた多店舗展展開を積極的に推進している(図表10参照)。出店戦略においては、一定地域に集中的に出店して店舗網を構築し、ドミナント戦略でシェアアップを実現している。北海道全域にドミナント網を形成した後、全国への事業展開を始めた。1995年に、東北地方へ進出し始めた。秋田をはじめ、岩手、宮城、山形の4県に順調に進めている。2003年に、福島、青森に出店したことで、東北6県の店舗網を形成した。
また、1995年1月、ツルハはジャスコとの業務提携により、イオン系列のスーパーにテナントとして出店できるようになった。同年8月に、マックスバリュー手宮店がオープンした。その後、岩見沢東店、深川店、滝川店など札幌圏と旭川圏を挟んだエリアを中心に広がっている。
2016年10月まで、ツルハは北海道札幌市で190万都市に94店舗を展開している。人口2万人に1店舗の割合で自社の店舗網を拡充することにより競争力を高めている。同時に、小商圏をターゲットとして出店も進んでいる。地域特性に即した新たなフォーマットを構築している。人口1~1.5万人に1店舗の割合で店舗網を拡充することで自社の競争力を高めていると目指している注:ツルハの採用サイトHP2019。
一方、全国各地の薬局との提携も進めている。1997年にクスリのアオキ(石川県松任市)と、1999年にクラフト(東京都千代田区)、グリーンクロス?9?9コア(さいたま市)と業務?9?9資本を提携した。また、2000年にはスギ薬局(愛知県安城市)と提携していたが、2006年提携が解消された。
また、2001年に神奈川県、東京都を中心に25店舗を持つリバースを株式交換により子会社化し、首都圏への進出も本格的に進めている。翌年には、山形県を中心に16店舗を持つポテトカンパニーを株式取得により完全子会社化、東北地区の事業展開を強化できた。さらに、くすりの太郎(千葉県)を株式交換により子会社化し注:ツルハの採用サイト2019、翌年には信陽堂薬局(千葉県千葉市)の11店舗譲受などにより関東地区への進出を強化した。その後、2017年3月に京都府、4月に新潟県で1号店をオープンさせたことによって、これまで店舗網の薄かった九州などのエリアにも集中出店を進化していくことである注:ツルハの採用サイト2019。また、改装や不採算店舗のスクラップなどにより既存店の活性化に取り組んでいるほか、繁華街立地への出店も進めている。
ツルハはM&Aによって、各社の特徴を活用し、2016年12月まで、30都道府県に事業展開し、店舗数1719店舗を持ち、業界店舗数NO.1になった。これから世界2万店舗、売上高6兆円のグローバルチェーンを目指している注:ツルハグループの総合採用サイトHPにより。
その他、海外事業にも積極的に出店している。2012年には東南アジア?9?9タイに進出し、海外で20店舗のネットワークを構築した。
図表10 出所:ツルハグループの総合採用サイトにより
6-2-2.PB商品と陳列注:ツルハHPにより
ツルハグループ2017年5月期の連結決算では、純利益が前期比26%増の244億円となり、新規出店の増加やM&Aのほか、利益率が高いPB商品をコツコツと細部を改善して地域の健康ニーズをつかむことができた注:ダイヤモンド?9?9ドラッグストア2017年7月15号。一方、重冨(2014)によると、ツルハは基本的に「付加価値訴求」を主張しながら事業展開をしている。つまり、価格よりも価値を重視し、医薬品、化粧品など中核の商品のカウンセリング販売や、調剤併設、介護事業への対応も積極的に行っている。
ツルハグループでは「M’s one(エムズワン)」と「Medis’s one(メディスワン)」という2つのPB商品を中心に企画?9?9販売している。「M’s one」はMANZOKU’s(たくさんの満足)+one(一つの、とっておきの)を組み合わせたネーミングである。つまり、お客様の生の声を生かし育てながら、たくさんの満足とともに一人ひとりの絶品となる商品を開発するという思いが込められている。このブランドは2007年に立ち上げ、コンセプトの一つとしては「NBとの共存を考えたPB商品を開発」という点である。つまり、NBの良さを引き出しPB商品開発することである注:月刊マーチャンダイジング 2013年7月号『PB SB 「作る、売り切る、売り続ける」チカラ』。
PB商品を改善する第一弾としては、「エムズワン」、「メディズワン」それぞれパッケージなどを統一することである。2016年11月~12月に、栄養補助食品の「緑菜三昧」と整腸剤の「ミヤフローラEX」を発売した(図表11参照)。新商品の緑菜三昧は、従来製品より摂取できるビタミンやミネラルを増やした。そして、ミヤフローラEXは消化管の働きを改善する酪酸菌が生きたまま腸に届く商品である。商品は小粒だが、同社にとっては大きな一歩注:日経流通新聞2017年7月12日。また、「ナノインパクトプレケアエッセンス」という生コラーゲンを主成分としての美容液と化粧水のセット商品があり、この商品が初めて発売されたときに、スターターキットを店舗に送付し、ポスター等の販売資材も同時に投入し、担当の化粧品担当者等にヒヤリングを行い、導入時には全国50~60会場で商品に関する勉強会にも行われている。
同年、PB商品の開発?9?9販売をさらに強化するために、ツルハグループ内ではPB開発会社と物流会社、ネット販売会社を合併させた。2017年5月期までに、PB商品の売上高を前期比5%増の335億円に高める目標を掲げている。
利益率の高いPB商品を磨く一方、店舗改装も進めている。2010年前から食品の販売を始め、ドラッグのほぼ全店約1000店舗が導入したが、さらに各店舗を改善している。初期導入店舗は「平らな台に単品を並べる」平台陳列が中心に行っていたが、コンビニエンスストアのような棚割りで取扱商品数を増加するために、多品種の商品を並べられるゴンドラじゅう器を多く導入している。そして、冷蔵?9?9冷凍ケースを新設し、牛乳や豆腐、ヨーグルトといった日配食品や冷凍食品にも手かけている注:日本経済新聞 地方経済面北海道2017年1月6日。これらの改装により、客数が前期比で4%ほど増加した。また、ツルハグループの子会社「くすりの福太郎」は、調剤室が狭く作業効率が低いという欠点を改善するために、レイアウト変更や部分拡大をした。それと同時に、待合室の拡張や投薬カウントーの増設にも力を入れた注:日本経済新聞 地方経済面 2016年9月14日。
一方、2012年7月18日に、タイの第1号店「ツルハドラッグ?9?9ゲートウェイ?9?9エカマイ店」がオープンされた。ツルハ式に従って商品を陳列している。基本的にはワンスペースで完結できる商品を並べる。例えば、歯磨きコーナーでは、上から順に歯ブラシ、口腔清浄液、生薬歯磨き粉、高級歯磨き粉、大衆向け歯磨き粉が所狭しと並べられている。また、「ツルハ式」の2点目としては「前進立体陳列法」である。つまり、陳列棚の手前に置いた商品の背後に、立体的に商品を陳列する方法である。それは、品切れがないことをアピールすることができる。それとともに、どの商品にも汚れがないことを示すことができる。
図表11 出所:ツルハHPにより作成
6-2-3.販売促進策
ツルハグループは決済スピードの効率化や顧客の利便性を考え、積極的にキャッシュレス決済に取り組んでいる。2015年1月19日から、商品の値引きクーポンなどを掲載した販促特化型サイトである「FAN!」の運用を開始した。そのサイトではツルハグループ各店のチラシが閲覧できる一方、30~40品目の商品を対象商品として、1商品あたり20~200円程度値引きするクーポンも使用できる。さらに、サイトに会員登録すると10品目強のクーポンも提供している注:日経流通新聞2015年1月19日。また、ドラッグストア業界の中でツルハはモバイルバーコード決済にもいち早く対応に着手している。2017年9月10月から、全国の店舗でLINE Pay決済への対応を開始した。ツルハグループの約1650店舗でスマートフォンのみでの決済が可能となり、「LINE Payでのお買い物でLINEポイント5%還元キャンペーン」も実施している注:日経速報ニュースアーカイブ2017年9月29日。2017年10月1日から、インコム?9?9ジャパンと加盟店契約を締結し、中国人観光客への対応により「WeChat Pay」のPOS対応もスタートした。2014年4月、ツルハは米国系の「カタリナマーケのレジクーポン」を導入した。それは、膨大な購買データに基づき、消費者の購買行動を予測し、それぞれの嗜好によって最適なクーポンを発行するというシステムである。継続的な来店を促進することができる。1年間後、グループ内の導入は1300店舗に拡大し、当社の従来のチラシによる広告に加え、効率的な販売促進策である。しかも、一般的なダイレクトメール(DM)クーポン利用率の1%に対して、年間のクーポン発行率が7%であり、販促効果が大きい注:日経速報ニュースアーカイブ2015年1月19日 。
また、イベントなどの開催にも参加している。2008年の5月末に、試供品を提供するサイトである「ルーク19」と提携し、全国各地で試供品イベントの開催に進めている。最初は、札幌市内のツルハと組み、健康食品や化粧品、医療機器メーカーなどの取引先百社程度が参加した。会場では個別のブースを用意し、来場者はアンケートを回答した後、各社の試供品を受け取ることが可能である。しかも、イベントに参加できなかった人に向けて、「サンプル百貨店」の特設ページを設置し、試供品を配布するほか商品を割引価格で販売することもできる注:日経流通新聞2008年1月28日。
さらに、中国人観光客の需要に応じ、店頭での販促に力を入れる。例えば、中国の春節に向けて、人気のある商品である小林製薬の漢方薬「清肺湯ダスモック」に対する専用POPを用意している。PM2.5で空が白くかすんだ写真に、中国語で「大気汚染にピッタリ」と書いた。東京?9?9銀座や秋葉原、大阪、心斎橋など中国人観光客がよく訪ねるところにある、約60店のドラッグストアでPOPを展示している注:日経産業新聞2017年1月11日。また、そのほかの認知度が高い商品も外国人観光客に対応するため、大量に揃え、専用のPOPを作成している。
図表12 ①出所:日経産業新聞2017年1月11日14ページ
②出所:日経流通新聞2016年11月4日5ページ
6-2-4. 物流戦略
ツルハはドラッグストアの小商圏化に備え、ローコストオペレーションを徹底している。
ローコスト運営の取り組みとして物流センター機能の改革を推進している。2002年北海道物流センターを石狩市に設置し、2003年には仙台物流センターを宮城県に設置し東北6県をカバーし、2009年には関東物流センターを千葉県八千代市設置している注:佐藤はるみ(2011)。さらに、北海道内全域の店舗網をカバーする物流の核として高精度、ローコストを実現するために、2011年8月に、北海道石狩市の物流センターを拡充し、新築するセンターは従来の配送機能に加え、在庫機能も備えた。道内全域の295店舗をカバーする物流の核として活用している注:ツルハのHP。既存のセンターは日々の商品を店舗別に品ぞろえして配荷するトランスファーセンターであったが、在庫機能を付加したディストリビューションセンター化を進めている。これにより店舗へは商品部門別に納品する方式を展開し始めている。店舗では納品されたコンテナから即座に陳列できるようにして、品出しなどの作業を軽減できるようになった。
また、西日本地区の配送については、従来当社の子会社(株)ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本、ツルハくすりの福太郎、レディ薬局の3拠点の物流センターにより行っていたが、2019年4月からそれらの3つのセンターを集約し、新拠点「ツルハ ク?9?1ルーフ?9?2ト?9?1ラック?9?1&ファーマシー西日本山陽物流センター」を築いた注:当社グループ山陽地区物流センター設置に関するお知らせhttp://www.tsuruha-hd.co.jp/topic/news/dl.php?id=1493。 各地の物流センターの納品体制を改善したことで、店舗作業の効率化がアップさせた。これまで複数のカテゴリーが交ぜされて納品され、作業導線が長く複雑であったが、カテゴリー別、ゴンドラ順の梱包?9?9納品の改善により、店内の作業導線の短縮、単純化されるようになった。2016年の1月まで物流DC化率が40%、販管費率は20.9%であり、前年同期比0.5ポイントを引き下げた注:激流 『ドラッグストアの最新戦略』2016年1月号。
6-3. マツモトキヨシの沿革注:マツキヨHP
マツモトキヨシはドラッグストア業界においては、けん引役の存在といえる。1932年に、千葉県の松戸市に、松本清によって開業された個人経営の薬局「松本薬舗」までさかのぼる。当時の創業精神は、規制概念にとらわれず「よい品をよりやすい」、常に顧客の満足を追求するサービス精神である注:樹林(1996)。1954年に、店名を松本薬舗から自分の名前であるマツモトキヨシに変更した。1980年代まで、いわゆる日本各地の薬局?9?9薬店は間口が狭く、奥行きが長く店内照明も暗く、白衣を着た薬剤師がカウンター越したに応対していた店舗構えがほとんどであった。1987年に、マツキヨは業界先駆けてまったく新しいコンセプトを持つ都市型「マツモトキヨシ上野横店」を開店した。この店は、資生堂の戦略からヒントを得て、若者を取り込むことの重要性を認識した上で、間口前面開放方式やセルフ販売コーナーを拡大し、照度を上げた明るくした。今までの暗く気軽に足を運べないという薬局?9?9薬店への店舗イメージを払拭した。そして、多くのサンプルやテスターを新設し、若年層をメインターゲットとした店作りを行っていた注:商業界(2001)。これを皮切りに、若い女性をメインターゲットとして、とくに渋谷や新宿、銀座といった繁華街へ積極的に出店し、「マツキヨ」ブームを巻き起こした注:日経流通新聞2004年4月1日。1999年に業界初の上場を果たし、業界の売り上トップの座を占めていた。その後、2001年から、各地域の優良企業との資本?9?9業務提携、フランチャイズ契約により、グループ拡大戦略を進めている。
続いて、2014年に、タイをはじめ、自社のPB商品のテストマーケティングを開始した。2年後、マツモトキヨシの公式アプリを公開し、外国人への免税対応も開始した。また、2015年に日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の初代会長として、日本におけるドラッグストアの理解促進、自分の健康は自分で守る「セルフメディケーション」の推進など社会に大きな役割を果たしたことが評価された注。同年の7月に、次世代ヘルスケア店舗の展開開始暮らしのヘルスケアショップ「マツキヨLAB」新松戸駅前店がオープンされたと同時に、中国のアリババ社による天猫国際モールに出店した。これから越境ECへの対応が始まった。そして、海外第1号店タイ王国にオープンした。2017年3月まで、マツモトキヨシグループの店舗網は45都道府県に広げている(関連会社海外店舗は除く)。以下、マツモトキヨシのマーケティング戦略の観点から説明する。
6-3-1.出店戦略注:「販売革新」2003年4月号
マツモトキヨシの出店には、いくつかの段階が見られる。初期には本社がある関東エリアで集中的に出店し、地元での販売シェアを高めてきた。つまり、首都圏を集中にしてチェーン展開し、首都圏の一等地に店舗網を構築し、ドミナント化を推進していた。
次には、2000年3月に大阪?9?9梅田地区で関西一号店を開店した。それを皮切りに、九州、中国、東海といった首都圏以外のエリアへの進出を果たした、地方の中心商店街や駅ビルなどに店舗を構え、10代後半から20代前半の女性を中心に、東京と同じような「マツキヨ?9?9フィーバー」を各地で繰り広げていった。この時期の出店先は人口100人以上の都市を対象としている。
また、2002年に人口58万人の静岡県浜松市の出店を皮切りに、出店戦略を見直し、人口30万規模の地方都市への出店を推進していた注:周(2005)。すなわち、マツモトキヨシがty区営店を展開する際には、地方都市の中心部だけに限られている。中心に複数の店舗を設け、その周辺エリアはグループ企業やフランチャイズ企業の店舗展開によってドミナント化をしている。2004年3月期には、北海道や西日本への新規出店によって、北海道から九州までの主要都市への進出を始めた注:周(2005)。
さらに、流通業界で「駅ナカ」ビジネスの集客力が注目されている中、ターミナル駅の構内?9?9隣接駅ビルへの出店が期待されている。
一方、各地方の有力ドラッグチェーン企業と業務提携やM&Aも進んでいる。静岡県の高田薬局、青森県の横浜フォーマシ―、福岡県のドラッグイレブンなどの業務提携を行い、グループ化と出店戦略の兼ね合いを実現した。それらの出店戦略に対して、当時の社長はこのように言った。「これだけスピードの速い時代になると、単独で全国を制覇するのは難しいと思うようになりました。大都市と地方では消費ニーズが異なんです。だったら、地方は、そのエリアで知名度や信頼度の高いドラッグチェーンに任せ、彼らにマツキヨの経営ノウハウやオリジナル商品を提供して、グループ全体で販売シェアを高めたほうが合理的なんじゃないかと考えたんです」。
以上のことを踏まえて、マツモトキヨシは、直営店とグループ会社の業務提携の二本立て出店戦略を行っている。
6-3-2.商品戦略~PBの強み
2000年前後、マツモトキヨシは本格的にPB商品の開発を開始した。当社は共同仕入れ機構NIDからNB商品のほかにPB商品も仕入れてきた。しかしながら、同じ共同仕入れ組織内の企業でPB商品の店舗競合が増え、競合他社と同じPB商品では他社との差別化を図れないことに危機感を抱いた。そこで、マツモトキヨシは2006年からPB商品の独自開発を進め、「MKカスタマー」というPB商品の開発?9?9販売を成功した。「MKカスタマー」は医薬品、化粧品、日用雑貨品など幅広い品揃えを有するのが特徴である。およそ1600品目数であり、初年度の売上高が全体の10%以上を占めていた。NB商品と比較すると、2~3割安い一方、化粧品や医薬品では高付加価値商品を揃えている注:日経流通新聞2008年4月4日。
また、2015年9月30日に、当社は「matshukiyo LAB」という新しいPB商品の事業展開を始めた。この「matshukiyo LAB」は専門家が推奨する美と健康をトータルサポートする商品ブランドとして販売している。つまり、栄養補助食品としての役割を果たしている。同年では計画より2倍の売れ行きになった。また、翌年の10月に、新たに水なしで噛んで食べられるチュアブルタイプの「食べるサプリ」シリーズを追加した。全国のマツキヨグループ全店で販売している。
そのほか、2015年12月24日に、当社の新PB商品「matsukiyo」が誕生した(図表15参照)。これまでのPB商品戦略をさらに魅力あるものに刷新し、マツキヨらしさ、潜在的な顧客ニーズ、新しい価値創造、そしてお客様が使うシーンを想定した今までにない新しいコンセプトを設定し、「MKカスタマー」を超える品質と統一感のあるデザイン、ひと目で当社グループのPB商品と認知できる「matsukiyo」を開発した。この新PB商品は女性の社会進出、働き方の変化などにより消費者のニーズやライフスタイルに基づいて展開した。コンセプトは、「毎日の暮らしをより美しく、健やかに、楽しく彩る、アイデアを利かせた、オリジナルブランド」である。商品づくりにさらにこだわり、その開発には面白さ楽しさのあるアイデアを加え、デザインについてもこだわりを持つようになった。
以上のことによって、マツキヨのPB商品においては、主なブランドについて、「matsukiyo」、「MKカスタマー」と「matsukiyo LAB」の3種類がある。さらに、「MKカスタマー」の中では、「アルジェラン」「レチノタイム」「ブランドホワイト」などそれぞれ独立したブランドで展開されている。2000品目が商品化され、売上高比率が全体の9%を超えている注。それらのPB商品の開発の基本は、顧客のニーズを分析しそれぞれの商品開発に反映して提供することになる。当社では今後でもPB商品の展開する軌道に進化していく。
6-3-2. 品揃えと陳列注:マツキヨ101戦略
前述したように、1980年代まで、いわゆる日本各地の薬局?9?9薬店は間口が狭く、奥行きが長く店内照明も暗く、白衣を着た薬剤師がカウンター越したに応対していた店舗構えがほとんどであった。1987年に、マツキヨは業界先駆けてまったく新しいコンセプトを持つ都市型「マツモトキヨシ上野横店」を開店した。この店は、資生堂の戦略からヒントを得て、若者を取り込むことの重要性を認識した上で、間口前面開放方式やセルフ販売コーナーを拡大し、照度を上げた明るくした。今までの暗く気軽に足を運べないという薬局?9?9薬店への店舗イメージを払拭した注:商業界(2001)。そして、多くのサンプルやテスターを新設し、若年層をメインターゲットとした店作りを行っていた注:吉田(2005)。
また、従来型の薬局?9?9薬店では、トイレとペーパーや潜在などの日用品を店舗置くのが定石であったが、上野アメ横店は日用品をおかず、薬、化粧品、健康用品、オーラルケア、ヘアケア、生理用品、医療用品などの日用雑貨に及んでいる。さらに、当時のアメ横は消費者が刺身や乾物、生鮮関係を買いにくるような場所であったため、「そんな場所で薬や化粧品の店が繁盛するのか」との懸念があった。しかしながら、当時の松本南海雄の「何しろやってみなきゃ分からない」という一言で挑戦したとのことである注:吉田(2005)。
そのほか、店舗の陳列も工夫している。通常、階段には商品を置かないものであるが、靴屋をヒントに階段壁面に商品を置くための陳列棚を作り、2階への回遊性を高めていく注:吉田(2005)。
したがって、マツキヨはそれまでの店舗イメージを刷新し、ドラッグストアの定型を作り上げた。そして、前述したように、従来の薬局?9?9薬店は「病気の人が利用する店」というマイナスのイメージが強かったが、暗中模索の中で上野アメ横店での成功を受け、薬局のコンセプトを改め、[健康な人が美容と健康を増進するために利用する店]という新しいコンセプトを作り出した注:吉田(2005)。現在では、ドラッグストア業界の標準店舗として模倣されている。
6-3-3.物流戦略の展開
店舗展開が急速に進む中、欠品や過剰在庫を防ぐ、規模の拡大などの問題に対し、マツキヨは独自の物流センターの構築、多頻度小口物流の導入と調剤備蓄センターを開設している。
まず、独自の物流センターの構築について、1996年に、埼玉、神奈川、滋賀、北海道で独自の物流センターを構築した。例えば、店舗が夜10時までにEOS(Electronic Ordering System:電子発注システム)で発注すると、日本全国どこでも翌々日の朝には、商品が届けるようにする。このシステムは当時、同業他社にはまだ導入されていなかった。この物流センターの新設によって、各店舗からバラ発注、物流センターからバラ納品が可能となる注:吉田(2005)。
また、多頻度小口物流については、周(2005)によると、1998年から、マツキヨはコンビニエンスストアの日配商品と同じように、1日3回の頻度で配送を始めている。つまり、多頻度小口物流である。小川(2000)によると、ドラッグストアへの多頻度小口物流の導入は、「1フェース1アイテム」の売場が生んだ物流革新である。顧客の多様なニーズに対応できるために、売れ筋商品でも1フェース1アイテムしかさかないのである。しかし、このようにすれば、売れ筋商品は店頭への補充を頻繁にしなければならない。多種多様な商品を揃え、顧客にとって店舗の魅力度をアップさせるようにするために、1日3回の多頻度小口の配送方式を導入した。1998年11月から、マツキヨは埼玉県吉川市の運送会社丸和運輸機関に業務を対外委託し、大型物施設「マツモトキヨシ専用物流センター」を設立した。この新センターは、マツキヨとの取引量が多い7社に在庫保管スペースを割り当てる。桃太郎便により卸側の在庫小分けを行い、同時に検品も済ませる。そして、卸の発注商品をメーカーに取りに行き、センターに運ぶなどのことも担っている。このように、卸物流の機能を桃太郎便が肩代わりし、卸側は在庫のリスクの責任を負い、センター費用を払うようになる。卸側は商品提案をする。また、納品価格などのコストが引き下げる。一括配送する商品数を増やすことで、各店舗の荷受け作業を効率化させるようにする注:日経流通新聞1998年4月9日。
さらに、2000年6月から、神奈川県内に新たな大型物流センターを設立し、新拠点として活用して首都圏での配送体制を強化していると同時に、調剤店舗と調剤備蓄センターをネットワーク化し、店舗の調剤業務から調剤備蓄センターでの医薬品の在庫管理や物流管理までを一体化した。このように、中央線から北の店舗を旧センター(埼玉県吉川市)、南を新センターがカバーしているため、都内での配送時間を削減できる注:日経流通新聞2000年6月15日。
「これからは卸が小売りを選ぶ時代」だと松本清南海雄社長が言った注:日本経済新聞朝刊2004年12月14日。以前は卸同士を競わせ、最も条件の良い相手を選べばよかった。1990年代から急速に進んだ卸再編により、巨大卸が不採算な取引を切り始めた。確かに、多くのドラッグストアが事業機会をうかがって、今後中間流通の見直しが急務になっている。
第7章 中国のドラッグストアの市場環境について
7-1.中国のドラッグストアの外部環境について注:孫(2015)
2000年から中国がWTOへの加盟により、国民経済が急速に成長している。また、国民の消費支出の変化につれ、ライフスタイルも変化し、消費支出の項目も変化した。図表15が示すように、CPI(Consumer Price Index Consumer Price Index)注:消費者物価指数である。一般消費財の価格変化を反映する指標である糧食、油、肉類、卵、水産、野菜、果物などの一定の商品を組み合わせ、当期の価格で割ることにより算出する)は少し減少したが、2007年から2016年にかけて、都市住民一人当たりの消費支出金額は2倍ほどが増加した。その期間では物価水準は上下に変動していた。2008年と2011年二回ピークであったが、物価調整の政策により、2012年以降の物価が下落していた。しかも、この期間においては、食品支出の割合は6.2%減少していたが、医療保健の割合は0.6%、家電製品?9?9日用品などの割合は2.1%ほどが増加した(図表16参照)。
図表15 出所:国家統計局により整理
図表16 出所:国家統計局により整理
また、2012年3月にマッキンゼー社の調査『2020年の中国の消費者と会おう』注:McKinsey Consumer&Shopper Insightsによると、2000年から2010年までの間に、生活必需品(食品など)と半生活必需品(衣服、医療保険、インテリア用品、住宅及び公共事業)の支出が減少している一方、非生活必需品(パーソナルケア?9?9サービス、娯楽、文化、教育、交通、通信)の支出が増加していくことで、これから非生活必需品の支出がさらに増加すると推測している。
以上から、消費者が生活必需品を購入し、生活品質を改善するため消費の価値観を変化させていることが示唆される。
一方、ドラッグストアの市場環境においては、『2011年国内化粧品市場構造分析』によると、中国の化粧品市場は2001年から持続的成長し、化粧品売上総額1075億元を超えた注:2013年2月27日中国産業情報により(http://www.chyxx.com/industry/201302/194716.html)。その中では、薬粧化粧品は325億元であり、全体の30.2%を占めている。ところが、日本や米国などの先進国においては、薬粧化粧品の割合が60%前後になっている。これによって、中国の薬粧化粧品市場は発展の余地があると考えられる。一方、医薬品市場については、『全国医薬品流通業発展計画網用(2011~2015)によると、2009年から2012年にかけて、医薬品小売連鎖企業の店舗数は13.5万店から15.3万店に急増し、医薬小売総額は1487億元から2607億元に増加した。これから、高齢化や慢性病などの問題の深刻さにつれ、医薬品への需要はさらに拡大していくと予想されている。
前述したように、中国のドラッグストアは大きく薬店と薬粧店の2つに分けている。薬店は1990年前後から事業展開を開始した。その中には、内資系企業が多く、ほとんど住宅地型であり、店舗数が多いが、店舗の面積はやや狭いという弱点があった。他方、90年代外資企業の参入の規制緩和によって、2000年初、香港系?9?9台湾系などの外資系ドラッグストアが中国大陸市場に進出し、薬粧店として本格的な事業展開を始めた。これらの薬粧店は、米国や日本のドラッグストアチェーンの経営の経験を取り入れ事業を行っていたため、店舗面積は薬店より広く、店内レイアウトや品揃えに力を注いで、ショッピングモールや百貨店への出店も進めている。
しかしながら、ドラッグストア業界の成長とともに、業界での競争が激化してきた。各薬粧店は熾烈な価格競争を繰り広げる一方、薬店も取扱い品目を拡大し、薬粧店と消費者を奪い合うようになっている。2009年4月6日に、中国国務院の『医薬衛生体制改革を強化するための意見』が発表されことによって、医薬品の仕入れ価格と販売価格を一致させ、マージンをなくす「零差率」という政策を推進した。そのため、各地域の病院及び医薬品企業が段階的に実施し、結果としては薬店の利潤は急激に下落した。
これに対して、薬店は商品?9?9サービスの多角化という対策を推進している。利潤率が高い化粧品や健康食品などの分野に品揃えを広げていた。2013年の中国医薬商業協会の調査によって、薬店においては、取扱った医薬品の比率は77.6%であり、食品、健康食品などが12.5%、医療機器が6.9%、薬粧化粧品が1.7%、日用品が0.9%を占めていた。薬店は取扱品目の拡大につれて、薬粧店との商品を類似するようになり、今後両社は競合関係になる可能性があると考えている。
7-2.中国のドラッグストア内部市場環境について注:孫(2017)B
前述したように、中国のドラッグストアは大きく薬粧店と薬店の2つに分ける。その中では、薬粧店は1990年代から事業を展開する外資系企業と、外資系企業の拡張戦略を受け、成長してきた内資系企業という2つに分けられる。中国全土に出店する薬粧店のトップ企業であるワトソンズを見ると、店舗数は2005年の100店から2017年の3000店舗まで30倍が増加した。また、内資系企業であるGialen(嬌蘭佳人)は2005年に開店してから、2017
年8月まで2000店舗に達した(図表17参照)。
一方、薬店の成長も顕著であった。2011年の『全国医薬品流通業発展計画網用(2011-2015)』が実施したから、薬店チェーンの企業数は2011年の2607社から2014年の4266社に増加した。同時に、薬店チェーン店舗数も増加した。チェーン化率は39.4%に高まった。その中では、直営方式を中心に展開する企業が多かった。図表18は、2017年中国薬店デェーン百強ランキングである。ここでは、中国の代表的な薬粧店をそれぞれに説明する。
薬粧店 |
事業分野 |
1号店開店年
(年) |
資本関係 |
総店舗数
(店) |
Watsons
(屈臣氏) |
保健、美容商品、香水、スキンケア、日用品、食品?9?9飲料、電子用品、ワインなど |
1989 |
香港 |
3000
(2017.4.15) |
T3C
(唐三彩) |
書生向けの化粧品やパーソナルティなど |
2004 |
香港 |
|
Mannings
(万寧) |
健康、パーソナルティ、スキンケア、ベビー用品など |
2004 |
香港 |
|
Sasa
(莎莎) |
化粧品リーテルなど |
2005 |
香港 |
|
Sephora
(丝芙兰) |
スキンケア、メイクアップ、香水、メンズケア、ボディケア、ヘアケア、アクセサリーなど |
2005 |
フランス系 |
|
Gialen
(嬌蘭佳人) |
スキンケア、メイクアップ、ボディケア、ヘアケア、メンズケア、ベビー商品、化粧品小物、日用品など |
2005 |
内資系(広東) |
2000
(2017.8.17) |
東大日化 |
日用百貨、化粧品、食品の卸?9?9小売など |
1990 |
内資系(河北) |
|
1000colors
(千色) |
香水、スキンケア、メイクアップ、日用品、バッグ、アクセサリー、下着、化粧品小物など |
1993 |
内資系(広東) |
|
Yesa
(億莎) |
スキンケア、メイクアップ、香水、パーソナルティなど |
1995 |
内資系(北京) |
|
図表17 出所:各社のHPにより作成
ランキング |
薬店チェーン企業 |
直営店舗数
(店) |
加盟店店舗数
(店) |
総店舗数
(店) |
1 |
雲南鴻翔一心堂株式有限公司 |
4085 |
0 |
4085 |
2 |
国薬持株国大薬房有限公司 |
2503 |
999 |
3502 |
3 |
大参林医薬集団株式有限公司 |
2409 |
0 |
2409 |
4 |
中国海王星辰連鎖薬店有限公司 |
1998 |
0 |
1998 |
5 |
老百姓大薬房連鎖株式有限公司 |
1838 |
0 |
1838 |
6 |
益豊大薬房連鎖株式有限公司 |
1512 |
23 |
1535 |
7 |
重慶桐君閣大薬房連鎖有限責任公司 |
1483 |
8017 |
9500 |
8 |
甘粛衆友健康医薬株式有限公司 |
1305 |
0 |
1305 |
9 |
雲南健之佳健康連鎖店株式有限公司 |
1185 |
3 |
1188 |
10 |
大健康国際集団株式有限公司
(元:全天集団) |
953 |
0 |
953 |
図表18 出所:中商情報網により
(http://top.askci.com/news/20170706/170813102368.shtml)
8.中国の代表的な薬粧店について
8-1.ワトソンズの経営について注:孫(2015)
8-1-1.ワトソンズの沿革と発展について
1978年の1月に香港取引所に上場した和記黄埔有限公司は創業初期黄埔埠頭と和記洋行との二つの事業から始まった。黄埔埠頭は1843年に設立され、20世紀初期には香港三大埠頭会社の一つになった。和記洋行は1860年に設立され、インドやイギリスの織物などを販売する貿易企業と港湾小売業が主要な事業としている。1965年に、和記洋行は万国企業に買収され、名称を和記国際に変更した。また、1969年に黄埔埠頭も万国企業に買収され、和記グループを設立した。しかし、経営不振のため、1975年にイギリス系の香港上海銀行に買収されるようになった。しかも、同族経営企業から非同族経営企業に移行した。
1977年に、和記グループはハチソン?9?9ワンポアの名称に変更され、2年後、長江実業はハチソン?9?9ワンポアの株を22.4%買い、1980年に保有率が40%になった。その後、世界の56カ国に事業展開をしている。主に不動産?9?9ホテル、小売業、エネルギー、インフラ?9?9投資、通信という5つの事業分野に及んでいる。しかし、経済不景気の影響を受け、各事業分野が不振しているが、ワトソンズをはじめ小売業の発展が順調に進んでいる。また、2009年に、世界金融危機の到来により、ハチソン?9?9ワンポアの不動産、港湾、通信企業の経営状況はさらに悪化している。特に通信事業は長期の赤字に落ち込んでしまった。このような状況の下では、多くの香港投資家が投資先をハチソン?9?9ワンポアから中国大型国有企業に移した。ついに、2010年、ハチソン?9?9ワンポアの株式総額は下落し、2009年のより10%減少した。ハチソン?9?9ワンポアの多くの事業分野が不振しているが、ワトソンズは好調を続けている。2011年にはワトソンズを中核としての小売業が、全体の売上高総額の37.8%を占め、前年度より24%が増加した。
ワトソンズは香港に本社を置く、1828年に、イギリス人A.S.Watsonが広州で『広東大薬房』という店で創業し、その後、中国大陸に炭酸飲料水の工場を設立した。1841年に香港で薬店を開店し、さらに統治者エティンバラの専用の薬店にした。また、1871年にワトソンズ有限公司を設立し、中国語で『屈臣氏』と呼ばれている。1895年までに、薬、化粧品、香水など300品目超の商品を販売し、総店舗数は35店に達した。1903年から、香港と中国大陸にPB商品である蒸留水を発売したが、第二次世界大戦の日中戦争の影響によって、1949にワトソンズは中国市場から退出していた。
一方、1989年に、親会社であるハチソン?9?9ワンポアから資金を支えることにより、中国大陸に再進出した。北京の麗都広場で「個人用品店」という店が開かれた。パーソナルケアという概念を初導入し、競争相手がなく、新たな業態を展開している。しかしながら、当時の消費者の需要や価値観に適合していなかったため、利用者が少なく、経営発展が遅かった。2004年までに、ワトソンズは中国での個人用品店は50店舗しかなかった。
また、2005年に中国の政府が外資系企業の参入規制の緩和によって、ワトソンズは積極的に店舗網を構築している。2005年までに、中国の店舗数は100店に拡大した。そして、毎年100店以上のスピードで開店し、2011年に1000店舗になった。ワトソンズは店舗数の拡大と低価格の方針のほか、消費者獲得の目標も設定した。その時には、香港系のマンニング(万寧)などのドラッグストアとの競合が激しかった。勝ちを収めるために、ワトソンズは立地条件について科学的な分析を行い、立地優位性に注目している。同時に、進出地域は二級都市と三級都市を重点にした。
しかし、当時には外資系企業は地方へ進出するときに、地方政府から許可を取得したり、路面演出などの販売促進を行うことを政府へ申告したりすることが必要である。これらの問題を解決するために、ワトソンズは現地に子会社を設立することを決した。そこで、ハチソン?9?9ワンポアの子会社格渥(中国香港)投資有限公司が、青島ワトソンズ個人用品商店有限公司を設立した。青島を中心に華北、東北地域への拡大を実現した。2011年まで、ワトソンズは二級都市に5つの子会社を設立し、成都、昆明などの二級、三級都市への出店が進化している。
中国国内で店舗網を築く一方、海外への出店も展開している。2000年、ワトソンズはイギリスの化粧品チェーン店であるSaversを買収し、本格的にヨーロッパ市場に進出した。また、2002年に、ヨーロッパの健康美容品小売企業の第三位であるKruidvatを買収し、急速にヨーロッパ市場を拡大している。さらに、2004年にライビアRota参加のDROGAS、2005年イギリスの香水チェーンMerchant Retail、Marionnaudなど、様々な企業を買収した結果、ワトソンズの総店舗数は5662店になり、健康美容分野の最大小売企業になった注:ワトソンズのHPにより。
8-1-2.立地戦略注:孫(2015)
2012年2月に、ワトソンズは、中国不動産会社大連万達グループと中国糧油食品グループと提携した。万達グループは中国最大の不動産会社として、ブランド力が強く、魅力的なショッピングセンターを持つことに特徴があり、ワトソンズにとって優良な出店場所となる。また、万達グループと提携したことにより、ワトソンズは万達のホームページで重点的な店舗として推奨されている。それはワトソンズの認知度を高めるにもつながる。そして、ワトソンズは主に万達広場の1、2階に出店しているため、エレベーターやエスカレーターなどが設置されるところで、集客力もアップさせた。
一方、中国糧油食品グル―プの大悦城は、主要なターゲット層は18~35歳の中間階級であり、「若さ、ファッション、流行、センス」をアピールする総合ショッピングセンターである。ワトソンズは大悦城と提携したことで、顧客情報を共有することができる。そして、大悦城に出店しているドラッグストアは、ワトソンズの1社のみである。
さらに、ワトソンズは、中国山東省に進出したイオングループと提携し、山東省の青島、烟台などで急速に発展し、店舗網を構築した。
一方、馮(2014)によると、ワトソンズは店舗の立地条件については、通行量、利便性、見通しなどが重要なポイントとしている(図表19参照)。その立地条件に基づき、北京のショッピングセンターに99店舗、オフィス街に36店舗、住宅街27店舗を持っている。例えば、北京西城区の君泰百貨店に入店したワトソンズの立地は、商店街のシータン(西単)の北街道に面している。この北街道は、1960年代から小売業、飲食業、サービス業などが集中する商業圏の中心である。1993年以降、政府が都市の再生や道路の拡張などの政策の実施により、シータンは急速に発展し、さらに、不動産産業の発展につれ、百貨店やショッピングセンターなどの業態も発展した結果、商業集積地となる。シータン商業圏を軸にして、君泰百貨店、大悦城、シータン百貨店をはじめ、百貨店、銀行、高級ホテルなどの商業施設が多く並んでいると同時に、学校、病院、住宅地なども多いため、安定的な商業圏を形成している。
また、交通の利便性においては、地下鉄の1号、2号、4号の駅近くにあり、顧客を集めやすい場所である。2015年まで、シータン北街道にワトソンズはすでに5店舗を持っている。
1.通行量が多い、人が集まりやすく、一日の通行人口は4000~8000人ほど |
2.交通便利、可視性、一般的に50m以外から店舗が見える場所 |
3.繁華街、商店街、オフィス街などを中心に |
4.店舗面積は200~300㎡、地上1階は最優先、独立の入口、店舗の高さは3.2m以上 |
5.契約期間は10年以上、かつ賃貸に関連する法律書類を備える店舗 |
図表19 出所:馮(2014)203ページにより作成
8-1-3.商品戦略注:孫(2015)
ワトソンズは化粧品を中心に、医薬品、保健商品、パーソナルケア、雑貨などの商品を取扱い、PB商品を含め、8000品目を超えている。2006年にACニールセンは、広州でワトソンズに来店した600名の女性を対象として、買物の理由について調査した。そこでは、NB商品と比べ、PB商品は消費者を吸引する主要なポイントとなることを明らかにした。
1950年代に、ワトソンズのPB商品である蒸留水の販売を始めた。その後、医薬品、化粧品、洗剤、健康食品、食品等の分野でPB商品を開発?9?9販売し、2013までに2000品目を超え、構成率は全商品の20%を占めている注:馮(2014)53ページ。同業他社のPB商品を比較すると、ワトソンズはカテゴリーでPB商品を開発している(図表20)。
企業名 |
保健 |
医薬品 |
化粧品 |
日用雑貨 |
アクセサリー |
衣服 |
食品 |
総合評価 |
ワトソンズ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
★★★★★ |
セフォラ |
× |
× |
○ |
○ |
× |
○ |
× |
★★★ |
康是美 |
× |
× |
× |
○ |
× |
× |
× |
★★★ |
マンニング |
○ |
× |
× |
○ |
○ |
○ |
× |
★★★★ |
図表20 出所:注:馮建軍(2014)53ページより作成
その中では、化粧品と飲料(蒸留水、ジュース)が最も注目されている。例えば、化粧品の中でシートマスクを取り上げてみると、0~299元の商品は68品目である。しかも、50~99.99元の商品が最も多く、82%を占め、56品目がある。それと比べ、NB商品においては、50~99.99元の商品が50%を占め、100~199元の商品が33%を占めている注:ワトソンズのHPにより。ワトソンズのPB商品は低価格だけでなく、品質も確保している。より良い商品を安い価格で消費者に提供することにより、売上高の増加が実現する。
図表20 出所:孫(2015)(原典:徐光明、洪婉儀(2014.5)12ページ)
ターゲット対象を選び、それらのターゲットのニーズに対応するPB商品を開発することを中核事業にして展開している。馮(2014)によると、ワトソンズのターゲットは18~35歳の女性であり、ファッションを追求している学生とOLが主要である。それらの消費者はファッションナブルな商品を追求し、商品の使用感とデザインに注目している注:馮(2014)219ページ。ここでは、代表的なPB商品である蒸留水の経緯を説明する。
1903年から、ワトソンズはPB商品である蒸留水の開発?9?9製造を始めた。1950年代には商業用のガラスボトルがオフィスで流行っていたが、ガラスの容器が割れやすいなどの欠点があるため、1977年にワトソンズは500ミリリットルのペットボトル蒸留水を発売し、セット商品としてディスペンサーを発売した。また、1994年に「漏れ留シーリングシステム」が付いているディスペンサーを開発した。その後、ワトソンズは北京で蒸留水工場を設立し、全国へ蒸留水を供給することを開始した。さらに、1996年に一般家庭用の12リットルの蒸留水を発売した。1998年、ボトルを交換するときに、持ちやすいハンドル付きの流線型「易提」ボトルを開発し、2002年にさらにパッケージを刷新し、500ミリリットルのデザインを変え、緑と水色の水滴の形になった。それと同時に、2003年にワトソンズが成立している100年を記念するため、香港シリーズをテーマとして、毎月100周年記念のペットボトルを販売した。続いて、2012年、香港の自転車選手李慧詩をキャラクターとして、「信念を信じる」という広告を打ち出した。さらに、2015年に全香港へ100%rPET素材で、リサイクル可能である「Go Green」というペットボトルを発売したと同時に、「夢を堅持する」という新しい広告を打ち出した。それらの改善により、蒸留水の認知度を高め、健康的な飲料として市場に定着した注:ワトソンズの蒸留水HPにより(図表21参照)。
発展経緯 |
イメージ |
1950年代
ガラスボトル |
|
1996年~
流線型「易提」ボトル |
|
2002年~
500mlボトルデザイン |
|
2003年
100周年シリーズ |
|
2012年
蒸留水ブランドイメージ |
|
2015年
「Go Green」デザイン
「夢を堅持する」イメージ |
|
図表21 出所:ワトソンズの蒸留水HPにより作成(http://www.watsons-water.com)
8-1-4.標準化接客サービス注:馮(2014)85~93ページ
ワトソンズでは、商品の強化が重視されている一方、接客サービスにも注力されている。当社は標準化の接客サービスを行い、6つの接客ステップを設定している。
第1ステップは、従業員による笑顔の接客である。顧客が来店した後、「いらっしゃいませ」と挨拶したり、顧客とアイコンタクトしたりすることにより、顧客に親しみを感じさせるようにしている。ステップ2は、買い物かごを顧客に手渡すことである。顧客が会計に行くときに、顧客の代わりに買い物かごを持ち、レジまでに案内する。ステップ3は、レジで待たせる顧客が4人以上の場合、ほかのレジへ顧客を誘引する。ステップ4は、顧客が「薬剤師がいるかどうか」を聞いたときに、薬剤師が丁寧に案内し、専門的な知識を顧客に提供する。ステップ5は、従業員は顧客にテーマプロモーション商品を推奨し、会員カードに関連する情報を紹介する。ステップ6は、顧客が出る時に、従業員は「またお越しくださいませ」と挨拶をする。以上のことは、ワトソンズは従業員の行動を標準化し、「ハッピー」という理念を徹底している。
また、それと同時に、健康相談員を育成している。顧客の健康状況やスキンケアなどの悩みには、無料で問い合わせに対応することができる。しかも、「健康の親友」のコーナーを設置し、スキンケアアインフォメーションなどのパーソナルケア情報を公開している。
このように、ワトソンズは様々な方策を実施したことで、顧客の購買意欲を促進し、店舗の売上高につながっている。ある統計によると、顧客はワトソンズの買物の平均時間は25~30分である。つまり、顧客が来店する際に、様々な商品を比較したり、サンプルを試用したりすることで、自分にかなう商品を購入できる。ついでに新商品を見つける機会も多くなる。従業員は、顧客の生の声を聞いたり、商品の情報を顧客に紹介したりすることで、顧客との信頼関係を築くことができる。従業員は顧客のニーズを把握したうえで、新商品への開発にも結びつけられる。
8-1-5.発見式陳列
「発見式陳列」は、VAS(Visibility Authority Shoppability)の原則によって、消費者に楽しい買い物環境を提供する方法である。ワトソンズの独特な陳列方法である。Visibility、つまり可視性は、店舗全体の雰囲気、イベントの宣伝効果、陳列棚の高さと商品の充実度、通路の広さなどから反映されることである。具体的に言うと、主要なターゲットである女性に適合するために、店内の陳列棚は160cmから140cmに変更した。これにより、消費者に圧迫感を取り除き、店の奥まで見えるような買物環境を提供した。Shoppability?1?0つまり買物環境の優しさとは、店内レイアウト、カテゴリーの関連性と、商品のPOPや販促商品コーナーなどの表示を分かりやすいように設置することである。これに基づいて、商品の並べ方は、メイクアップ医薬品、スキンケア化粧品、美容機器と関連用品、ヘアケア、ファッション、医薬品の順序で陳列している。
また、Authority、つまり商品の専門性を強調するために、ワトソンズはTBFFという概念を導入した。TBFFとは、To Befamous Forの略称である。消費者を吸引することを目的として、目立つ場所に商品を設置することである。その中では、PB商品、スキンケア、ヘアケア、ビタミン剤、栄養補充剤と一部のメイクアップ化粧品などのアイテムが含まれている。また、カテゴリーごとに異なる色によって区別している。このような「発見式陳列」はワトソンズが成功したポイントの一つとなっている。
TBFFアイテムについては、ワトソンズが下のように展開している。PB商品は主力商品として、最も良いところに並べられた。化粧品の場合、連結ゴンドラにおいてすべてのPB化粧品がブランドごとに陳列され、それぞれのブランド名も棚の上に付けている。また、商品の色でブランドを区分することによって、消費者に利便性を提供している。さらに、消費者の購買欲を促進するため、独立ゴンドラや移動ゴンドラにPB商品を陳列している。PB商品を、親しみやすさによって、消費者にアピールしている。
TBFFアイテム |
コアアイテム |
オプションアイテム |
ØPB商品
Øスキンケア
Øヘアケア
Øビタミン剤
Ø栄養補充剤
|
Øバス関連用品
Øメンズ
Øサニタリー
Ø医薬品
Øアイケア
Ø美容電気製品 |
Øお菓子
Ø衣服
Ø玩具 |
出所:ワトソンズニュース「和と新図商品カテゴリー策略」(2009.10.29)
8-1-6.低価格戦略注:馮(2014)
ワトソンズは開店して以来、消費者を中心に市場戦略やサービスなどを強化している。2004年に低価格戦略を立て、ワトソンズはターゲットの嗜好を深く掘りながら、価格優位性のある個人ケア用品を開発し続けている。そして、消費者の様々なニーズを満足させるために、低価格商品の組み合わせを調整している。2006年に200店舗を開店するとともに、低価格保証を出し、消費者に「ワトソンズで購入した商品が他店より高い場合、価格の半額を返還します」と宣言した。しかも低価格保証の対象商品は1300品目を超えている注:馮(2014)13ページ。例えば、化粧品については、0~100元未満の化粧水は45品目であり、100~300元未満の化粧水は29品目である。その一方、一般的化粧水の販売価格は0~600元であるため、ワトソンズが取扱った化粧水はローエンドとマス市場にあるといえる注:孫(2015)31ページ。
以上の低価格戦略を実施したことで、ワトソンズは消費者市場をますます拡大した。特に二級、三級都市に参入したときに、消費者支出は大都市より低いレベルであるため、低価格方針が十分に浸透している。2009年までに、ワトソンズは中国の28都市に店舗を展開していた注:馮(2014)284ページ。2013年ワトソンズアニュアルレポートによると、ワトソンズグループは世界中に10500店舗以上出店している。店舗数の増加につれ、大量販売が可能となる。それを支えるために、大量仕入れ、低コストの確保が可能になる。大量仕入れによる仕入れ価格のコントロールによって、さらに低価格で販売することを維持できるという好循環を実現している。低価格方策を実施していると同時に、商品の品質改善や付加価値の提供にも力を入れている。それについては標準化接客サービスのところで説明した。
そのほか、ワトソンズは在庫商品の品質を最大限に確保しながら、グローバルグループを設立し、全世界で商品の調達を行っている。食品、家電や電子商品など、商品の範囲も拡大している。その結果、世界5000以上の業者と緊密に協力し、全世界の顧客に18万SKUを提供している。
8-1-7.販売促進活動
ここでは、ワトソンズの販売促進活動について検討する。有効なプロモーションは商品の売上高に結びつくだけでなく、ロイヤルティを高めることにもつながる。あらかじめ消費者はほしい商品を購入することよりも、店内のPOPを見て買おうという衝動買いも売上高に大きく貢献する。そこで、魅力的なプロモーションを行い、消費者の購買意欲を促すわけである。プロモーションについては、主に「会員特典」「BUY ONE TAKE ONE(1個買うと1個無料付き)」「PLUS ONE TAKE ONE MORE(1元プラスすると商品もう1個)」といった14個のプロモーションが行われている(図表23参照)。また、PB商品をアピールするために、様々な販促を実施し、消費者と接触する機会を増加しようとしている。そして、消費者の立場で見ると、商品の使用経験が良ければ、ワトソンズへの信頼感も高まっていく。
それら以外には、テーマプロモーションも積極的に展開している(図表24参照)。
販売促進方式 |
具体的な内容 |
お得コーナー |
PB商品を中心に、対象商品3つ以上を買うと、一回の合計金額が50元以上になると、10元プラスで対象商品から一つ無料をもらえる。 |
PLUS ONE TAKE ONE MORE
(1元プラスで商品もう1個) |
PB商品を中心に、対象商品を買うと、1元プラスで、同じ商品もう1個無料でもらえる。 |
BUY, ONE TAKE ONE
(1個買うと1個無料付き) |
PB商品を中心に、対象商品1個を買うと、1個無料でもらえる。2個買うと、2個無料でもらえる。商品を購入すると粗品を無料である。 |
値引き |
NB商品を中心に、同様な商品を2個買うと、値引き販売を行う。 |
独占特典 |
NB商品を中心に、サプライヤーと事前交渉して、他店にない特典を行う。 |
タイムセール |
抽選で1名顧客は60秒以内で取る商品を1件1元で買うことができる(商品金額は5000元以内に)。 |
中身増量キャンペーン |
PB商品を中心に、値段をそのままで中身を増量。 |
クーポン券 |
対象商品にして、クーポン券をDMに印刷、指定した商品を買うとクーポン券に明記された金額分を使える。 |
引換券 |
一定金額以上お買い上げがあれば引換券を使える。 |
お得なセット |
NB商品を中心に、商品をセットにし、価格を変更して、顧客にお得感を与える。 |
セール期間限定 |
PB商品を中心に、安価商品を目立つ場所に、山積みにして顧客を吸引する。 |
贈答キャンペーン |
一部商品を通常よりやすく販売し、顧客へ贈答のための販促活動。 |
会員特典 |
会員様を対象として値引き商品を提供する。 |
プレゼント |
会計金額以上になると、プレゼントを贈る |
図表23 出所:馮(2014)59~61ページにより作成
2006年にACニールセンは、広州でワトソンズに来店した600名の女性を対象にした調査を行い、ワトソンズに来店する理由を聞くと、複数回答で「便利」、「買いやすさ」、「好きなブランドがある」、「高価値な販促活動」、「PB商品」、「商品知識の専門性」「低価格」などがあげられた。それに基づき、85%の人が商品の豊富さと品質等の原因で来店したと推測し、つまり、ワトソンズは低価格のみならず、付加価値を出せるようにも取り組んでいる。それは、消費者を吸引する最大の理由の一つとなっている注:馮(2014)67~68ページ。
8-2. 嬌蘭佳人(Gialen)の経営について
8-2-1.嬌蘭佳人の発展について注:嬌蘭佳人のHPにより(http://www.gialen.com/About/Index.xhtml?unit1)
2003年後半、嬌蘭佳人の直営店の展開を正式に始めた。1年後、単一の経営方式を変え、2005年に、広州で第一号チェーン店を開店した。「閉鎖式」の案内ショッピングから「セルフ式」のショッピングまで、合同会社から株式会社まで、嬌蘭佳人は中国の国情を合わせながら、経営方式を変換し続けている。しかも、一流の真空乳化設備を持ち、商品の開発研究室やその他の設備も国内の先駆である。当社は商品の開発?9?9製造、販売、サービスの育成が一貫化され、現在では広州、北京、上海、成都、重慶,武漢、西安、瀋陽の8つの都市で子会社を持ち、従業員数3000人超の総合薬粧店チェーン企業である。1999年から、婷美、軍献、敏婷等のブランドを作り出し、国際ブランド会社と提携したことによって、香水やヘアケア等のシリーズ商品を開発した。2001年6月に、当社の製造工場はISO9001の国際認証を認められた。中国の化粧品工場においては、製薬業界のGMP標準を認証された初めの企業である。2017年8月まで、全国で2000店舗を持ち、毎日平均来店客数が40万人を超えた。事業分野はスキンケア、メイクアップ、化粧マスク、ボディケア、ヘアケア、メンズケア、化粧品小物、日用品の八類商品、およそ10000SKUを扱う薬粧店チェーン企業である。2016年の百強チェーン企業の首位となった。2017年8月1日に、嬌蘭佳人の社長蔡汝青は「優品厳選、ファッション安価」という方策を打ち出した。つまり、「優品」は、当社が商品を持続的に開発する企業や製造メーカーを選び、卓越な品質を確保しながら、消費者に最も良い商品を提供することである。「厳選」は、分類比較という方法によって、より良い商品を選び出し、消費者のショッピング時間や誤りを最小限にすることである。「ファッション」は、消費者のライフスタイルとニーズを尊重し、流行している商品やサービスを提供することである。さらに、「安価」は、流通システムの改革により、商品の価格を調整し、消費者の利益を最優先に考慮することである。2025年までに、10000店舗、総売上高200億元という目標を掲げ、中国本土の第一の薬粧店チェーン企業に努めている。
次に、嬌蘭佳人の経営特徴については、出店戦略、低価格戦略と店舗拡張、陳列とPB商品及びネットプラットフォームの四つの側面があげられる。
8-2-2.出店戦略
嬌蘭佳人は創業の初期、大都市を中心に出店しているが、現在は三級、四級都市へ出店を転換している。そして、店舗種類はプレミアム店、社区店(コミュニティー)、一般店の3つのタイプに分けられる。プレミアム店は、商業集積地等の地域に出店し、輸入商品を中核商品として販売している。社区店は、住宅地に出店し、周辺の住民を主要ターゲットにしているため、日用品を多く取り扱っている。一般店は、プレミアム店と社区店の間に位置されている。当社は同業他社との競争を回避するため、大商圏に近くにある相対的に競争が少ない商圏や社区を優先に出店している。それらの店舗は、取扱商品、店内の内装など、それぞれ独自の標準がある注:「嬌蘭佳人蔡汝青:未来への対策」http://www.chinasspp.com/News/Detail/2016-9-13/354994.htm。例えば、重慶の南坪店を取り上げてみると、重慶の五つの商店街の一つである南坪に位置している。近くにPUMA,Meters Bonweなどのブランド店が並んでいる。ある統計によると、消費者は買いたい商品を購入すると同時に、ついでに近くの店舗に行って見たい人が80%で、さらにその中ではおよそ50%の人は商品を購入することが分かる。そのため、嬌蘭佳人は大商圏に出店し、利用者の数を確保できる。そして、市内主要な商店街として、交通銀行、中国建設銀行など、金融機関の設置が比較的完備している。また、近くにバス停がたくさん設置しているため、交通上にもかなり便利である。そのほか、住宅地が密着し、集客しやすいというメリットもある(図表25参照)。以上は、南坪店の立地が選択された理由である注:『嬌蘭佳人の連鎖単体店調研報告』。
8-2-3.低価格と店舗拡張注:『嬌蘭佳人の連鎖単体店調研報告』
嬌蘭佳人の主要ターゲットは中間階級とそれ以下の消費者である。そのため、取扱商品は一般大衆に向けるミドルエンドの商品がほとんどである。当社は「顧客を呼び集めるため定価(招徕定价)」という方策を立てる。すなわち、①廉価品で消費者を集め、ついでに他の商品を購入させる。②大幅に値引きすることにより集客する。③特価品に対し、合理的な広告を合わせながら来店客を多くする。それと同時に、割引販売を実施している。つまり、①期限が近い商品を値引きする。②タイムセールを実施する。例えば、対象商品は常に8.5割引で販売されている注:孫(2017)B。
一方、店舗拡張が進化している。特に柔軟性がある60~100㎡の中小型店舗は拡張の革新となる。2016年2月までに1165店舗を持つようになった。
8-2-4.陳列とPB商品孫(2017)B
嬌蘭佳人の商品陳列については、以下の特徴を持っている。①陳列空間を有効に利用する。それは、商品の販売量に従って陳列方法を決定することである。陳列棚の高さもそれぞれに異なる。一般的には2mであるが、真ん中の棚が少し低く、およそ1.5mである。女性の顧客の身長を考慮し、商品を一目瞭然ができ、買いやすい環境を提供させるためである。②ボリューム感があるように陳列する。主に「できる限り商品の在庫を売場に設置する」という原則に従い、通路の端や陳列棚の最上階に置くようにする。それは、売れ筋商品でも欠品回避のためである。③商品の魅力を展示する。主通路と副通路の組み合わせによって、商品の大量在庫と特価商品などを消費者に展示する。④特価商品を目立つ場所に陳列する。つまり、割引商品を店内の中央に置き、消費者の購買意欲を促す。⑤同類商品を垂直に陳列する。つまり、同類の異なる商品を垂直に陳列し、横式の陳列を避け、消費者の視線は上下移動ができ、選びやすくなる。⑥関連性陳列である。消費者はある商品を購入した際に、ついでにその関連商品を購入するように、関連性のある商品を近くに陳列する注:「零售学-娇兰佳人」(図表26参照)
図表26 出所:「零售学-娇兰佳人」http://www.doc88.com/p-9716122288570.html
一方、嬌蘭佳人の商品構成について、品目数では、高級ブランド(国際ブランド)4.72%、合資ブランド注:国際ブランドと提携したことによって、作られたブランドである。10.24%、本土主要ブランド9.45%、国内他のブランド67.72%、PB商品7%をそれぞれ占めている。2014年に、嬌蘭佳人の自社ブランド(PB商品)の売上高は全体の30~35%を占めた。そのうちでは、スキンケア化粧品とメイクアップ化粧品分野には多くのPB商品を持っている。1999年から開発してきた「植物日記」、「婷美美肌」などのブランドが含まれる注:『嬌蘭佳人の連鎖単体店調研報告』。例えば、2015年初、RECというメイクアップ化粧品を発売した。このブランドは、服装、化粧品などの会社と提携したことによって、重点的な推奨商品として、全国の一流、二流百貨店とショッピングセンターへの出店を進める。また、minilabというブランド2008年前後から発売が始まった。PB商品の全体の売上高の高いシェアを誇る。2016年にパッケージを刷新し、今後急速に発展していくと考えられる注:「娇兰佳人蔡汝青‘对未来的一些战略安排」中国时尚品牌网http://www.chinasspp.com/News/Detail/2016-9-13/354994.htm。さらに、2016年から、当社はティッシュぺーバーのPB商品の販売を始めた。この商品は手頃な価格で、品質が良いと消費者から好評を得られた。そして、ペーパー類の商品の中では、売上高の割合は最も高いシェアを占める。
8-2-5.ネットプラットフォーム注:「娇兰佳人发布战略蓝图‘构建千亿生态链」爱美女性网http://news.lady8844.com/info/2015-05-29/1432869599d1573309.html
近年では、ネットショッピング事業が注目を浴びている。これに対し、嬌蘭佳人の社長蔡汝青は以下のように言った。「小売業のリアル店舗とネットショッピング事業は一致させる必要がある。それは将来的に、中国の小売業の発展方向であろう。」そこで、S2Cという新たな方式を提出した。つまり、リアル店舗を中心にして、インターネットという手段を利用し、できる限り消費者に満足させるサービスを提供することである。そうすれば、リアル店舗の利用者を高め、売上高の増加に貢献できる。また、 「B2C+D2C+F2C」というオープンプラットフォームを構築しようとする。それは、B2C(Business to Customer)を積極的に行う上で、工業デザイン加工製造(Design to Customer)とオーダー製造(Factory to Customer)を加える。その目的は、最大限に消費者ニーズを満足させることである。その一方、オープンプラットフォームを通じて、商品の背後にあるサプライチェーンを統合することが競争を勝ち抜く鍵となる注:孫(2017)B。
第9章 日中ドラッグストアの比較
ここまで日中代表的なドラッグストアの発展経緯、現状及びそれぞれのマーケティング戦略については整理した。以上のことによって、ドラッグストアという業態については、マーケティング戦略の視点からの特徴を分析する。
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⑥商品?9?9サービス戦略
ドラッグストアという業態は、もともと薬局?9?9薬店という業種店から発展してきたことが多い。医薬品を主力商品にする事業展開をしているが、世帯構成の変化や時代の変換などの原因により、医薬品とその関連商品だけでは消費者に便利さや買いやすいさをつくることができなくなる。そこで、化粧品、日用雑貨、衣料品、食料品などの拡張が進んでいる。すなわち、ドラッグストアという業態は、消費者の生活を中心とした品揃えに注力している。
矢作(2002)によると、薬品以外の雑貨全般に商品ラインを拡大し、ワンストップショッピングに対応したスクランブル?9?9マーチャンダイジング(異種商品ライン追加による販売強化)がドラッグストア業態の品揃えのキーワードとなっている。つまり、医薬品の販売から、これらにかかわる商品を揃えるようにするのがドラッグストアである。すなわち、医薬品、化粧品といった名称ではなく、H&BCといった生活の名称で商品を構成している。
以上のことを踏まえ、ドラッグストアは、H&BCという専門性の高い品揃えとサービスを充実させていることと、生活シーンの日用雑貨も販売するという2つのポイントがある。そこで、日用雑貨、食品など、生活関連商品をワンストップショッピングすることができる一方、H&BC商品の提供によって、消費者のこだわりや多様なニーズを満たすことができる。小川(2000)によると、コンビニエンスストアがパーソナルケア商品およそ3000アイテムを取扱うに対して、ドラッグストアでは8000種類程度の商品を扱っている。
また、取扱う商品の種類はそれぞれの企業が似ているが、自社の優位性を確保するために、NB商品の付加価値の引き出しやPB商品の開発など、様々に取り組んでいる。それに対して、日本のドラッグストアは消費者それぞれのニーズを分析した上で、既存NB商品
例えば、ウエルシアはプルーオーシャン戦略を用いて、PBに頼らずにNBの付加価値の提供や新しい価値市場の開拓に注力している。ツルハは「NBとの共存を考えたPB商品を開発」というコンセプトを持ち、NBの良さを引き出すPB商品を開発している。そして、マツキヨは消費者それぞれのニーズを分析した上で、他社と差別され、高品質のPB商品を開発している。総じて、ウエルシアとツルハは既存商品から出発し、それらの商品の新しい価値を見つける。一方、マツキヨは顧客または潜在顧客のニーズを掴み、それらの顧客にかなう商品を開発している。
一方、中国のドラッグストア(薬粧店のみ)は、主に化粧品、日用雑貨品、保健品、パーソナルケアなどの商品を取扱い、医薬品を販売する企業が少ない(薬店を除く)。自社ブランドにおいての取り組みから、ワトソンズは主に18~35歳の女性をメインターゲットとして、ダブルブランド?1?1混合ブランド戦略注:提携、合併、共同開発などにより、ひとつの商品に複数のブランドが付けられているもの。 これには多くのバターンがある。 輸入商品に輸入した企業のブランドを併記する場合。 提携や共同開発により、両者のブランドを併記する場合。を用いて、ファッションナブルな商品を開発し、化粧品、医薬品、健康食品、食品などの分野に取り組んでいる。これに対して、嬌蘭佳人の対象顧客は中間階級層とその以下の消費者であるため、品質を確保した上で、価格を最も重視している。現在では、「植物日記」、「婷美美肌」、「REC」などの化粧品を開発した。
また、サービスの提供については、どちらも消費者の利便性を満たすために提供している一方、他のサービスを充実させている。具体的には、日本のドラッグストアには、ウエルシアは主に高齢化向けのサービスを強化している。例えば、カタログネット販売システムの導入、調剤と物販の連携、検体測定室の新設などが充実させている。ツルハは店内の陳列方法改善や品揃えの充実、待合室の拡大などに取り組んでいる。マツキヨは若年層をメインターゲットとして、間口前面開放方式やセルフコーナーの拡大、階段に商品の展示などで、従来の薬局?1?1薬店の「病気の人が利用する店?1?9というマイナスのイメージを払拭し、買い物の楽しさを高める。
さらに、接客サービスの面では、ワトソンズは六つの接客ステップで従業員の行動を標準化しているが、日本のように丁寧に接客するまでには至っておらず、依然として改善と続ける点いくつがある。
②物流戦略
物流戦略からには、各企業は独自の特徴を持っている。日本のドラッグストアには、ウエルシアの物流センターの特徴は「ハブセンター機能」を有している。すなわち、店舗から店舗への移動品をいったん集め、各方面別に仕分けし、ほかのセンターに発送している。ツルハは在庫機能を付加したディストリビューションセンターを持っている。マツキヨは在庫管理から物流管理まで一体化されている一方、1日3回の頻度で配送している多頻度小口配送という特徴を持っている。以上の3社とも人件費やその他の費用を抑制して低いコストで事業を運営している。
一方、中国のドラッグストアには、主に低価格戦略で運営しているため、大量販売が可能となる。大量販売による大量仕入れ価格のコントロールによって、さらに低価格で販売することを維持できるという好循環を行っている。全世界でグローバルグループを設立し、商品の調達を行っている。
②プロモーション戦略
日本のドラッグストアは主に運用サイトで展示するとともに店頭ポスターで販売情報を伝えている。そして、各種のイベントや社会活動に強く関心を持ち、できるだけ自社の知名度を上げようとしている。例えば、ツルハは中国人観光客の需要に応じ、東京?9?9銀座や秋葉原、大阪、心斎橋など中国人観光客がよく訪ねるところに、小林製薬の漢方薬「清肺湯ダスモック」に対する専用POPを用意している。PM2.5で空が白くかすんだ写真に、中国語で「大気汚染にピッタリ」と書いた。そして、2008年の5月末に、試供品を提供するサイトである「ルーク19」との提携によって、全国各地で試供品イベントの開催に進めている。試供品を配布するとともにほかの商品を割引価格で購入することができる。
中国のドラッグストアは主にコマーシャルなどのマスメディアと店頭ポスターを通じて、販売情報を伝える。例えば、2012年、香港の自転車選手李慧詩をキャラクターとして、「信念を信じる」という広告を打ち出した。そして、来店客に対して、「会員特典」「BUY ONE TAKE ONE(1個買うと1個無料付き)」「PLUS ONE TAKE ONE MORE(1元プラスすると商品もう1個)」といった14個のプロモーションが行われている。
③立地(出店戦略)
日本のドラッグストアは初期には、出店戦略はそれぞれ異なっていたが、業務提携とM&Aといった手法を用いて、グループの拡大を推進している。例えば、ツルハ元々小商圏をターゲットとした出店し、ドミナントエリア戦略によって進めていたが、事業の拡大につれ、全国に店舗網を構築し、これから全世界2万店舗を持ちという目標を掲げた。また、マツキヨは、最初首都圏を中心としてチェーン店舗化され、多くの店舗を作りながらドミナント化を推進していたが、現在では、九州、中国、東海といった首都圏以外のエリアにも進出している。
これに対して、中国のドラッグストアは中間所得層がメインターゲットとしているため、進出地域は二級都市と三級都市を重点にしている。そして、大企業と提携したことで、ショッピングセンターや百貨店など、通行量が多い、交通が便利なところに多く出店している。例えば、2015年までに、ワトソンズは北京のシータン北商店街で5店舗を持つようになっている。
以上の分析から見ると、日中ドラッグストアのマーケティング戦略とは全く異なっている。日本のドラッグストアは消費者のニーズを合わせながら、既存商品の付加価値を引き出し、化粧品、医薬品、日用雑貨品、食品など幅広くの新商品開発に取り組んでいる。これに対して、中国のドラッグストアは
日中ドラッグストアの経営特徴を明らかにする。
日本のドラッグストアは、利便性の強化と専門性の追加ということを用いて優位性を確保している。つまり、消費者に利便性を提供したうえで、社会の進展や政策の影響などにより、専門型のドラッグストアの構築が今後顕著になってくる。そこでは、ドラッグストア業界の大手企業ウエルシア、ツルハ、マツキヨという3つの例を取り上げた。それらの会社は、初期に出店戦略がそれぞれ異なっていたが、現在では地域密着型のドラッグストアの構築に目指すことになっている。また、独自の物流センターの建設、店内改装、陳列改善などで、消費者に買いやすい買物環境を提供している一方、PB商品の開発や調剤併設などへの注力で、消費者様々のニーズに対応でき、専門性のある新商品やサービスに取り組んでいる。この相互に密接に関連した各要素が独自のビジネスモデルを構築し、競争優位性を確保している。
一方、